勤務医として経験を積んで開業したいと考えている医師の方も少なくないでしょう。
開業医として病院経営を行う際、医療の技術はもちろんですが、その他にも役立つスキルや資格があります。
本記事では、病院経営において必要な資格や、開業時に身に着けておきたいスキル、病院のスタッフに必要な資格などについて解説します。
この記事の内容
病院経営に必要な資格とは?
病院経営において必須となる資格は医師免許のみで、その他に必要な資格はありません。
年齢条件もなく、これまでに医師としての経験がない若い人でも資金さえあれば開業は可能です。
ただ、医師免許を持っていなくても開業は可能ですが、一定の要件を満たしてから都道府県知事の認可を受けなければ開業できません。
病院経営で役立つ資格
病院経営では必須ではありませんが、持っていて役立つ資格があります。
資格を有していることで、専門性の高さを示せるのでアピールポイントとなります。
以下の4つの資格が病院経営に役立ちます。
- 医療経営士
- 病院経営管理士
- 防火管理者
- 医療経営コンサルタント
1.医療経営士
医療経営士とは、医療経営に関する知識と経営における課題を解決する能力と、それを実践できる能力を備えた人材とされています。
一般社団法人日本医療経営実践協会による民間資格で、1級~3級に分かれておりそれぞれの試験が年1~3回行われています。
3級は誰でも受験でき、2級、1級は一つ下の等級に合格して協会の「正会員」として登録した方のみが受験できます。
3級は医療・医療経営の基本レベルの知識、1級が経営幹部としての意思決定ができるレベルの知識を有する資格です。
受験資格 | 出題形式 | 出題数・時間 | 受験料 | |
---|---|---|---|---|
3級 | 誰でも受験可 | 五択のマークシート形式 | 50問・80分 | 9,100円(税込) |
2級 | 3級合格後、協会に正会員として登録された方 | 五択のマークシート形式 | 第1分野:50問・80分 第2分野:50問・80分 |
16,000円(税込) |
1級 | 2級合格後、協会に正会員として登録された方 | 一次試験:短文記述、論文記述 二次試験:口頭試問、個人面接 |
一次試験:各90分 二次試験:合計20分 |
50,000円(税込) |
医療経営士に関しては別記事で詳しく紹介していますので、合わせてご覧ください。
医療経営士とは?メリットや資格の取得方法、試験の概要を解説2.病院経営管理士
病院経営管理士とは、病院経営管理全般の知識を習得できる資格で、円滑な病院経営が行える人材の養成を目指しています。
一般社団法人日本病院会の認定資格で、医療全般を網羅した内容となっており、教育科目は39科目49単位の構成です。
日本病院会の通信教育を2年間受講し、39科目の修了とレポート・試験・卒論の提出を終えて、提出物が基準に達していれば合格となります。
開講日は毎年7月1日で、2年間の受講が必要となります。
期間 | 2年間 |
---|---|
開講日 | 毎年7月1日 |
申込期間 | 4月1日~5月31日 |
受講者選考 | 書類(申込書・履歴書)審査 |
受講料 | 1年480,000円(税込) |
受講内容 | 医療関連科目、経営管理演習、経営管理科目、特別講座、卒論 |
3.防火管理者
防火管理者とは、建物への火災等による被害を防止するために、防火管理業務を計画的に行う責任者です。
消防法で定められた国家資格となっています。
テナントとして収容人数が30人以上の大型ビルで開業する場合はこの資格が必要となります。
事務スタッフなどが取得しても問題はありませんが、退職する可能性も考慮すると医師が取得したほうがよいでしょう。
講習修了後の「効果測定」に合格できれば、取得となります。
講習種別 | 講習時間 | 受講料 |
---|---|---|
甲種新規講習 | おおむね10時間 (2日間講習) |
8,000円(税込) |
乙種講習 | おおむね5時間 (1日間講習) |
7,000円(税込) |
甲種再講習 | おおむね2時間 (半日講習) |
7,000円(税込) |
4.医業経営コンサルタント
医業経営コンサルタントとは、医療機関向けの経営コンサルタントの資格です。
資格取得後も継続して研修を受けることが義務付けられており、資質・能力の向上を図ることができます。
経営診断や経営戦略、経営管理などを目的とし、経営管理上の問題がないかを洗い出した上で改善策を提案・実践します。
指定講座を受講したのち、一次試験、二次試験(論文の審査)に合格すると資格が認定されます。
日程 | 指定講座:eラーニングによる自宅学習 一次試験:毎年8月下旬頃(年1回) 二次試験:1月・7月(年2回) |
---|---|
料金 | 指定講座:50,000円(テキスト・eラーニング代込) 一次試験:10,000円 二次試験:初回15,000円、二回目以降無料 継続研修:1時間あたり1,000~3,000円(自宅学習の場合、年額12,000円) 会費(認定後):年間120,000円 登録料(認定後):80,000円(初回のみ) 登録更新料:5,000円(年1回) |
認定登録 | 4月・10月の年2回 |
参照:公益社団法人医業経営コンサルタント協会|医業経営コンサルタントについて
開業医と勤務医の違い
開業医とは、病院やクリニックを個人で経営する医師のことで、地域に根づいた病院として地元の住民を診療することを目的として開業するケースが多いです。
患者やスタッフとの信頼関係が重要となるため、人柄やコミュニケーション能力が求められます。
勤務医は、大学や病院などで雇用されている医師のことで、開業医との違いは、経営者か雇われた従業員か、という解釈がわかりやすいです。
勤務医は給与所得者となり、給与は病院の経営状況に左右されないため安定した収入を得られます。
開業医の主な業務
開業医の主な業務は以下の通りです。
- 診療
- 経営
- 経理
- スタッフの採用・教育・育成
- スタッフの勤怠管理
- 集患対策(マーケティング)
- 医療機器の導入
- 診療方針の策定
- 医薬品の購入
開業医は診療だけにとどまらず、経営や経理、スタッフの採用から育成と幅広く行わなければなりません。
患者とのコミュニケーション能力も必要で、診療内容の評判には医師の愛想の良さなども関わってくるため重要な要素です。
医師が優しいなどの良い口コミが広まれば集患効果も現れます。
開業医の平均年収
厚生労働省による医療経済実態調査では、開業医の平均年収は約2,807万円と発表されています。
この金額から経営にかかる費用(経費)等を差し引いた分が手元に残ります。
勤務医と異なり、この収入から経営をやりくりしていく形となるため、入念にシミュレーションをしていく必要があります。
参照:中央社会保険医療協議会|第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告
また、開業医で年収1億円を目指したい場合は下記記事をご覧ください。
開業医で年収1億円は可能?平均年収と儲からない開業医の特徴5選開業時の病院経営におけるよくある5つの質問
病院の開業時に、経営に関するよくある質問としては以下の5つが挙げられます。
- 開業にあたって必要な資金は?
- 銀行借入はできる?
- 経営者として注意すべき点は?
- 開業場所はどうきめればいい?
- 都市部で開業する際の注意点は?
開業にあたって必要な資金は?
開業にあたってどのくらいの資金が必要かを事前に把握しておくことで、見通しをたてやすくなるでしょう。
日本政策金融公庫総合研修所の「2022年度新規開業実態調査」によると、開業資金の平均値は941万円です。
金額 | 割合 |
---|---|
500万円未満 | 43.1% |
500万~1000万円未満 | 28.5% |
1000万~2000万円未満 | 18% |
2000万円以上 | 10.5% |
最も高い割合は500万円未満に抑えたケースで、金額が高くなるほど割合も小さくなっていきます。
病院の規模にもよるでしょうが、一般的には1,000万円程度用意すれば開業できる場合が多いと考えておけばよいでしょう。
参照:日本政策金融公庫総合研修所 2022年度新規開業実態調査
銀行借入はできる?
地方銀行であれば、保証人なし、無担保でも医院開業の借入を行っているケースがあります。
大手都市銀行でも長期期間で低金利の借入が可能な場合があります。
しかし、返済計画が曖昧であれば借入は難しくなるため、無理のない返済計画を立てた事業計画書を策定する必要があります。
経営者として注意すべき点は?
開業医としてスタートするなら経営者としての自覚を持って取り組んでいく必要があります。
勤務医と違って診療業務だけでなく、経営においても自分自身で取り組まなければなりません。
経営を長く続けていきたいなら、適切なマーケティングを行うことは不可欠です。
どこにいくら投資して、どう回収するかというように経営者としての感覚が必要になります。
また、スタッフの育成やケアにも気を使う必要があり、従業員が多くなればなるほどすべての従業員を管理するのは負担が大きくなるため、必要に応じて勤怠管理ソフトなどのツールを導入しましょう。
医療経営セミナーへ参加して経営に関して学んだり、医療コンサルタントに相談するとより安定して経営を続けられることが期待できます。
開業場所はどうきめればいい?
クリニック開業を成功させるうえで最も重要と言っても過言ではないのが開業場所の選定です。
効率的に集患して収益を得るためには以下のポイントを考慮して選定すると良いです。
- 交通(最寄り駅からの距離など)
- 入居するビルや医療モールの認知度
- 視認性
- 地域内の診療ニーズ
- 住民の生活動線
- 競合の状況
駅から近いと客足が増えて経営が安定しやすいですし、電車からクリニックの看板が目に入りやすいなどの視認性が高ければ認知もされやすくなります。
しかし、駅の周辺は競合が激しい場合もあり、すでに同じ診療科のクリニックが立っている可能性もあります。
下調べを入念に行い、実際に現地まで調査に行って雰囲気や住民の年齢層などを確認しましょう。
医療コンサルタントや、医療に強い税理士などに相談するのも一つの手です。
都市部で開業する際の注意点は?
都市部はすでに病院・クリニックがたくさん開業している事が多い「激戦地区」です。
また、まだ開業していないけどこれから開業を狙っている医師も多く、都市部に入っていくのは難しいというのが現状です。
都市部で開業を目指すなら、医療サービスの提供に関するコンセプトや方針をしっかりと打ち立てて、そのコンセプト・方針に沿った診療を行うことが重要です。
都市部での経営に成功すれば多くの収益が見込めますが、競合もたくさんいることは事実のため、慎重に開業の準備を進めていきましょう。
資格の他に開業時に身に付けておきたい知識・スキル
資格以外にも開業時に身に着けておくと経営を有利に進められる知識やスキルがあります。
以下の4つのスキルを身につけることをおすすめします。
- マーケティングスキル
- スタッフマネジメントスキル
- コミュニケーションスキル
- 人事労務・税務管理スキル
マーケティングスキル
開業医は医師であり経営者でもあるため、経営者としてのスキルを身につけることも重要です。
経営状況が悪化すれば自分と院内のスタッフの生活にも悪影響を及ぼすため、大きな責任が伴います。
安定した経営を続けていくにはマーケティングの知識やスキルが必要で、集患を意識した経営を行わなければなりません。
立地の選定やメディアを活用した集患施策などが特に重要となります。
最近はWebマーケティングの重要性も高まっており、ホームページ、SNS、Googleマップを使った集患は高い効果が期待できます。
スタッフマネジメントスキル
病院・クリニックの経営は医師1人で全てを回せる訳ではなく、受付・看護師・事務長といったスタッフによる補助によって成り立ちます。
そのため、しっかりと業務をこなしてもらうためにもスタッフの仕事や役割を管理し、教育を行う必要があります。
診療の質を上げるためにはスタッフの仕事の質も上げなければならず、そのためにはスタッフのモチベーションを高められるような施策を行いましょう。
書籍を参考にしたり、コンサルタントに相談したりするとよいです。
コミュニケーションスキル
開業医として経営を行っていくにはコミュニケーションスキルも大切です。
診察での患者さんとのコミュニケーションをはじめとし、スタッフへ円滑な指示を出せるようなコミュニケーション、他の医師との連携のためのコミュニケーションなど、人間関係の構築のために様々な場面で必要となります。
患者さんに寄り添うスタイルの病院は評判が高くなりやすい傾向にありますし、患者さんとスタッフの双方からの信頼性が向上します。
優秀な人材の育成や定着にもつながるため、長期的な運営を見据えるならコミュニケーションスキルを高めることは大切です。
人事労務・税務管理スキル
給与や勤務時間等に問題があるとスタッフとのトラブルに繋がる恐れがあるため、人事労務管理のスキルを身につけておきましょう。
スタッフに良い労働環境で働いてもらうのと、トラブルを無くして自分の病院を守るという意味でも就業規則の作成方法や雇用条件に関する知識を身につける必要があります。
また、開業医は「確定申告」を行う必要があり、節税のためにも税務管理の知識も身に着けておきたいです。
税務までは手が回らないという場合は税理士に相談することをおすすめします。
病院のスタッフに必要な資格
病院では診療をスムーズに進めるためのスタッフが存在します。
業務によって資格が必要となる場合もあるため、「看護師」「受付」「事務長」のそれぞれに必要な資格やスキルを紹介します。
看護師
看護師になるには「看護師免許」が必要ですが、それ以外の資格は持っていなくても問題ありません。
保健師や助産師、認定看護師・専門看護師といった資格でも看護師の資格に該当し、看護師として雇用が可能です。
都道府県知事が発行する免許である「准看護師」も看護師の資格にあてはまります。
医師・歯科医師もしくは看護師の診療補助という役割となり、給与水準は少し低くなります。
受付
医療事務という職種で募集されることもある受付ですが、就業にあたって必要な資格はありません。
しかし、医療事務の業務では医療保険制度に関する知識が必要となります。
医療業界未経験の人材を雇って育成するのも悪くありませんが、即戦力を求めるなら、以下のような民間資格を持っている人材を募集しましょう。
- 医療事務技能認定試験
- 医事コンピュータ技能検定試験
- 診療報酬請求事務能力認定試験
- ホスピタルコンシェルジュ
受付として採用するなら、最低限のコミュニケーション能力も必要なため、面接で見極めましょう。
事務長
事務長を雇うことで、経営業務を任せることができるなどのメリットがあります。
医師は業務負担が減り、診療に専念出来るようになるためより質の高い医療を提供できます。
事務長としての資格は不要ですが、医療経営系の資格や経営学修士を取得した人材であれば、より安心して経営事務を任せられます。
優秀で即戦力な人材を求めるなら、募集要項に必要な資格を定めておきましょう。
まとめ:経営者という意識を持って幅広い業務を行い、安定した経営を進めよう
病院経営において必要なことは経営者としての意識を持つことです。
必須となる資格は医師免許のみですが、経営を安定させるためには幅広く業務を行っていく必要があります。
安定した経営を進めるためにも、本記事で紹介した資格の取得を検討しましょう。