クリニックの経営を安定させ、持続的に成長させるためには、経営計画の策定が欠かせません。しかし、初めて作成する方の中には「計画に盛り込む内容がわからない」「具体的な書き方を知りたい」と悩むこともあるでしょう。
本記事では、経営計画の作成手順や記載内容、活用できるテンプレートや記載例などを交えながら、分かりやすく解説します。適切な経営計画を立て、地域のニーズや課題に応え、選ばれるクリニックの実現を目指しましょう。
この記事の内容
クリニックの経営計画とは?
クリニックの経営計画とは、経営を安定させ成長させるための長期的な戦略です。医療の質を維持しつつ、地域の患者に選ばれるクリニックとなるためには、5〜10年後を見据えた計画的な運営が欠かせません。
患者数の増減や設備投資、人材採用、人件費の管理など、中長期的な視点で具体的な目標を設定することで、経営リスクを抑え、持続可能な運営が可能になります。一方、計画がないまま経営を続けてしまうと、目の前の課題に追われ、成長の機会を逃す恐れもあるでしょう。
クリニックの経営計画と事業計画の違い
クリニックの「経営計画」と「事業計画」は混同されがちですが、目的や範囲に違いがあります。
事業計画は、開業時や新規事業の立ち上げに必要なもので、金融機関からの資金調達や関係者への説明を目的としています。一方、経営計画は、開業後の中長期的な経営方針や具体的な目標を示すもので、クリニックを持続的に成長させる指針です。
事業計画が短期的な視点に立つのに対し、経営計画は患者数の増減や設備投資、従業員の育成など、クリニック全体の安定的な成長に直結する内容を含みます。
特に開業段階では、中長期的な視点で経営計画を策定しておくことで、事業計画の策定もスムーズに進むでしょう。
クリニックにおける経営計画の必要性
クリニックの経営計画は、組織の成長と安定経営を支える重要な指針です。経営の方向性を示すことで、現場全体の一体感が生まれ、変化の激しい医療業界でも柔軟に対応できるようになります。ここでは、経営計画が必要な理由を3つのポイントに分けて解説します。ここでは、以下であげた経営計画の3つの必要性について解説します。
- 経営の方向性を明確にする
- 長期的な安定経営を実現する
- 資金計画の効率化を図る
経営の方向性を明確にする
クリニックの経営計画は、「将来どうありたいか」というビジョンを具体的に描くための指針です。計画を作成することで、経営理念や目標など、経営の方向性が明確になり、院長をはじめ従業員や関係者が一貫した行動を取れるようになります。
クリニック全体の方向性が統一されることで、診療方針やサービス品質にも一貫性が生まれるメリットもあります。明確な目標設定は、従業員のモチベーション向上や組織全体の成長にもつながります。
長期的な安定経営を実現する
医療業界は、診療報酬の改定や地域間競争など、環境の変化が激しい業界です。こうした変化に対応しながら安定経営を維持するためには、経営計画が欠かせません。
計画を立てることで、業界の動向や地域のニーズや課題を事前に予測し、柔軟な対策が取れる体制が整います。また、経営計画の定期的な見直しにより、必要な施策を迅速に検討し、長期的な成長につなげることもできるでしょう。
資金計画の効率化を図る
クリニックの経営には、設備投資や人件費、広告宣伝費など、多くのコストがかかります。無計画な支出を続けると、資金不足に陥るリスクが高まるでしょう。
事前に策定した経営計画により、資金の流れを「見える化」しておくことで、無駄なコストを削減し、効率的な資金運用が可能になります。また、銀行や投資家に対して計画性を示せるため、資金調達や経営支援の際にも信頼を得やすくなります。
クリニックの経営計画に記載する内容
経営計画には、クリニックのビジョンや戦略、具体的な数値目標を盛り込むことで経営の軸が明確になります。ここでは、経営計画に欠かせない以下の4つの項目について解説します。
- 経営理念
- 経営戦略
- 事業戦略
- 数値計画
1.経営理念
経営理念は、クリニックの存在意義や価値観、将来のビジョンを示す基盤です。「どのような医療を提供し、地域社会に貢献するのか」を明確にすることで、経営の軸が定まります。
経営理念があることで、従業員の行動指針が統一され、組織全体に一体感が生まれます。また、理念に基づく経営は、地域住民や患者からの信頼獲得にもつながり、クリニックの長期的な成長に寄与するでしょう。
経営理念を計画に盛り込むことで、クリニックの方針がブレにくくなり、確実に目標へ向かう土台が形成されます。
2.経営戦略
経営戦略は、経営理念を実現するための総合的な方針です。「どのように競争力を維持し、成長するのか」を明確にし、地域ニーズに合わせた診療科目の拡充や他院との差別化を図る施策も含まれます。
経営戦略を策定することで、医療業界や地域環境の変化にも柔軟に対応でき、限られたリソースを効率的に配分できるでしょう。
3.事業戦略
事業戦略は、経営戦略を具体的な診療内容やサービスに落とし込む計画です。診療科ごとの強化方針や新たな施策(予防医療や専門外来の導入)を明確にすることで、クリニックの特色を打ち出せます。
事業戦略を策定することで、目標達成までの道筋が具体化され、従業員全体が同じ方向を向いて取り組めるメリットがあります。施策単位の成果を最大化させる方針を策定できることで、競争優位性の確立や患者満足度の向上にも直結するでしょう。
4.数値計画
数値計画は、経営目標や戦略を数値化し、収益予測やコスト管理、キャッシュフロー計画などを具体的な指標として示すものです。
資金の流れを可視化することで無駄な支出を防ぎ、経営の効率化を図ることも目的です。また、数値目標の設定により進捗状況が把握しやすくなることで、適切な改善策も打ち出せるでしょう。
さらに、数値計画は、金融機関や関係者に信頼性を示す重要な資料にもなるため、資金調達の際にも役立ちます。
【記載例付き】クリニックの経営計画を作成する4つの手順
経営計画を具体的に策定するには、段階的な手順を踏むことが重要です。ここでは、経営計画作成の際に参考になる、以下の4つの手順について記載例とともに解説しています。
- 経営理念を明確にする
- 現状分析を実施する
- 目標を設定する
- 実行計画を策定する
STEP1 経営理念を明確にする
経営理念はクリニックの存在意義や価値観を示す基盤です。「地域社会や患者にどう貢献したいのか」「どのようなクリニックでありたいのか」を明確にし、経営計画に落とし込みます。経営理念が明確になることで、クリニックの方向性が統一され、従業員や関係者も同じビジョンに向かって行動できるようになります。
以下は、経営理念の記載例となりますので、参考にしてみてください。
<記載例>
- 「当院は、地域の皆様が安心して健康維持をできるよう、予防医療と質の高い診療を提供します。患者一人ひとりに寄り添い、信頼されるクリニックを目指します。」
STEP2 現状分析を実施する
経営計画を策定するには、クリニックの現状を正確に把握することが重要です。地域内の競争環境、ターゲット層、人口動態、患者ニーズなどを調査し、自院の強みや課題を明確にします。さらに、競合クリニックの診療内容や差別化ポイントも分析することで、具体的な経営戦略の方向性が見えてくるでしょう。
現状分析を行うことで、効率的で実現可能な経営計画が策定され、競争優位性の確立や持続的な成長につながります。
以下は、現状分析結果の記載例となりますので、参考にしてみてください。
<記載例>
- 地域の人口:65歳以上の高齢者層が40%を占める
- 競合:近隣に内科クリニックが2件、予防医療を実施するクリニックは1件
- 自院の強み:専門医による糖尿病外来、予約システム導入済み など
STEP3 目標を設定する
現状分析に基づき、短期・中期・長期の目標を設定します。目標は達成可能かつ具体的な内容にすることが重要です。例えば、1年後の集患数増加や3年後の新サービス導入など、期限や数値を明確にすることで進捗が把握しやすくなります。
以下は、目標設定の記載例となりますので、参考にしてみてください。
<記載例>
- 短期目標(1年):新規患者数を月50名増加させる
- 中期目標(3年):健康診断の件数を年500件実施する
- 長期目標(5年):訪問診療を導入し、患者満足度90%を達成する
STEP4 実行計画を策定する
目標を達成するためには、具体的なアクションプランを策定することが重要です。医療機器の導入、人員の増強、集患対策、広告活動など、必要なリソースや実行時期を具体的に設定し、段階的に進めていくことがポイントです。また、策定した計画は定期的に進捗を確認し、必要に応じて改善する柔軟性も欠かせません。
以下は実行計画の具体的な記載例となりますので、参考にしてみてください。
<記載例>
- 医療機器:3ヶ月以内に新型超音波検査機器を導入
- 人員:看護師1名、受付スタッフ1名を採用(6ヶ月以内)
- 集患対策:WebサイトのSEO強化、SNSで定期的に情報発信を行う(毎月)
クリニックの経営計画で便利なテンプレート
経営計画書を効率的に作成するには、テンプレートの活用が効果的です。手順やフォーマットが整っているため、初めてでもスムーズに取り組めるでしょう。ここでは、クリニック経営でも使いやすいテンプレートを2つご紹介します。
中期経営計画書テンプレート
大阪産業創造館(産創館)が提供する、中期経営計画書のテンプレートです。最低限の項目に絞られており、クリニックの規模や診療方針に合わせて柔軟にカスタマイズできるのが特徴です。
WordやExcelの形式が選べ、記入例も付いているため、初めて経営計画を作成する方にも安心です。地域医療への貢献や設備投資計画など、中期的な目標を立てる際に活用しやすいテンプレートです。
経営行動計画書テンプレート
中小企業庁が提供する経営行動計画書は、Excel1枚でシンプルにまとめられた公的なテンプレートです。
書き方の見本もダウンロードできるため、フォーマットに沿って入力するだけで基本的な経営計画書が完成します。資金計画や行動計画を分かりやすく整理できるため、日々の進捗管理にも役立つ実用的なテンプレートと言えるでしょう。
クリニックの経営計画を作成する時の注意点
経営計画は正しく策定し、適切に運用することで効果を発揮します。ここでは、クリニックの経営計画を作成する際の4つの注意点を解説します。
- 現実的な目標で設定する
- 地域のニーズと一致しているか確認する
- 計画を継続的に検証する
- 従業員と共有する
現実的な目標で設定する
経営計画の目標は、達成可能で現実的な水準に設定することが重要です。楽観的すぎる目標や達成が困難な目標は、従業員のモチベーション低下を招く可能性もあるため注意しましょう。
例えば、短期間で大幅な患者数増加を掲げても、現実に見合わなければ逆効果です。実績データや現状分析結果をもとに段階的な目標を設定し、小さな達成を積み重ねることで、クリニック全体の士気を維持しながら安定した経営を目指せるでしょう。
地域のニーズと一致しているか確認する
経営計画の内容は、地域の健康課題や患者のニーズと合致していることが重要です。診療内容や設備投資が地域や患者に求められるものでなければ、期待する成果は得られにくくなります。
例えば、高齢者が多い地域では、訪問診療や慢性疾患外来の充実が効果的です。一方、若年層が多い地域では、予防接種や小児科の強化が求められることもあるでしょう。地域のニーズや課題を把握し、「選ばれるクリニック」づくりを意識することが、経営の安定化には不可欠です。
計画を継続的に検証する
経営計画は策定して終わりではありません。定期的に進捗確認や効果検証を行うことで、現状とのズレを把握し、適切な修正を加えることが可能です。
例えば、予想した患者数に届いていない場合は、広告施策の見直しや新たな集患対策を検討する必要があります。計画の定期的な検証を習慣化することで、目標達成の精度が高まり、長期的な経営の安定につながるでしょう。
従業員と共有する
経営計画は経営者や院長だけでなく、従業員全員と共有することが重要です。クリニックの方向性や目標をわかりやすく伝えることで、組織全体の一体感が生まれます。
例えば、患者満足度の向上や集患対策の目標を共有すれば、スタッフ一人ひとりの意識や行動にも変化が見られるでしょう。計画の共有は従業員のモチベーション向上にもつながりやすく、クリニック全体で目標達成に向けた協力体制を築くきっかけとなります。
まとめ:適切な経営計画の作成はクリニック経営を成功に導く鍵
経営計画は、クリニックの将来的な方向性を示し、成長と安定した経営を実現するための重要な指針です。計画を策定する際は、経営理念の明確化や目標設定を段階的に進め、具体的な行動に落とし込むことがポイントです。
さらに、計画は一度策定して終わりではなく、定期的な見直しや経営状況に合わせた柔軟な調整も欠かせません。適切な経営計画を策定し従業員と共有することで、地域で選ばれるクリニックの実現と、長期的な安定経営につながるでしょう。