「待ち時間が長すぎる」「治療内容に納得できない」といったクレームに頭を抱えている医療機関は少なくないでしょう。
クレームが発生した際にどのような対応を取るかで、患者の病院に対する印象も大きく変わってくるでしょう。
クレームへ事前に対策できる部分もあるため、クレームはなるべく最小限に抑えていく施策が必要です。
本記事では、クレームへの対応方法や、事前対策方法などについてポイントを解説します。
この記事の内容
クレームとは?苦情との違い
クレームとは、被害が生じたと主張する患者さんからの要求や主張のことをいいます。
広辞苑や大辞林といった辞書には「異議・苦情・文句」といった記述がされており、本来は商取引で使われていた用語が、広く一般にも浸透してきたものとなります。
苦情は、患者さんが不平不満を感じ、是正するように求めてくるもので、どちらも本質的には同じものと考えられます。
クレームと苦情の違いは、「言い分や要求が理不尽であるかどうか」が一つの分かれ目であるとされることが多く、怒っていて文句を言われただけでクレーマー扱いしないように注意しましょう。
病院・クリニックでのクレームへの対応方法
病院・クリニックにおいても少なからずクレームが発生することはあります。
適切な対応を行い、事態を丸く収められるよう努めましょう。
重要なのは初期対応で、以下の対応方法を意識すると対応しやすくなります。
- 患者に寄り添う
- 事実を把握する
- 複数人で対応する
- 個室に案内する
- 正確な記録を残す
- クレーム内容をスタッフ全員で共有する
- 特別扱いはしない
- 弁護士や警察への相談も視野に入れる
患者に寄り添う
クレームが発生したら、まずはその患者さんに寄り添って相手の話を聞くことが重要です。
相手の言い分が正しいかどうかは別にして、寄り添って対応することで怒りを和らげられる可能性があります。
反論や言い訳はせず、共感しながら話しを聞くことで、「しっかり話を聞いてくれる人だ」という印象を与えられます。
結果的に患者さんの不安解消にもつながり、早い段階でクレームの解決にもつながるでしょう。
事実を把握する
クレームが起こるということは、なにかが原因となっている可能性が高いため、状況を確認し、事実を把握しましょう。
患者さんがどういう理由で怒っているのか、何がきっかけなのかが分かれば、対応方法もそれに合わせて変える必要があります。
病院・クリニック側の不手際やスタッフの不適切な言動によって患者さんを不快にさせたという可能性もあり、苦情が出た時点ですぐにクレーマーとして処理することは誠実さに欠けた対応です。
他の患者さんから見ても病院・クリニック側の印象が悪くなる恐れがあるため、クレームを入れた患者とクリニックの双方が納得できる解決方法を提案して対応しましょう。
複数人で対応する
クレームが発生したら決してスタッフ1人で対応させてはいけません。
クレームを入れた患者は少なからず不快な思いをしたと感じて頭に血が上っている場合が多いです。
そういった患者に当事者であるスタッフが1人で対応すると、スタッフも冷静に判断ができない可能性があります。
必ず複数人もしくは上司が一緒に対応して、患者を落ち着かせるように冷静に対応しましょう。
クレーム対応には客観的に状況を把握できる人間が必要です。
個室に案内する
誠実に対応してもクレームが収まらない場合には、空いている診察室や病室などの個室に案内して対応しましょう。
クレームが発生している現場は雰囲気が悪くなり、他の患者さんも不快な思いをし、迷惑がかかります。
クレームを入れた本人も別室に移ることで、落ち着いて話ができる可能性があります。
正確な記録を残す
クレームは個人的な感情が先行して事実とは異なる主張をされる場合もあります。
事実を正確に記録しておくことで、万が一トラブルが裁判にまで発展した場合でも、証拠として提出できて裁判を有利に進められます。
例えば、防犯カメラの映像は削除せず残しておいたり、待ち時間が長いというクレームなら正確に受付時間から案内時間までを記録しておくとよいでしょう。
また、記録が残っていれば後から適切な対応であったかを振り返り、次に繋げる事ができます。
クレーム内容をスタッフ全員で共有する
クレームが起きることは避けようがないときもあります。
起きてしまったらその事実をスタッフ全員で共有して、次に同じようなクレームが起きた際の対処法として学ぶことが重要です。
事後共有をして全員で学ぶことで、別のスタッフが同じミスをしてしまうことを防げます。
また、現在進行系でクレームが起きている場合でも、全員で共有して院内の混乱を収められるように動きましょう。
特別扱いはしない
クレームを入れた患者を特別扱いしてはいけません。
例えば、待ち時間が長いというクレーム処理を早く終わらせるために、優先して案内したり、治療費を免除するという対処法は絶対に避けましょう。
どの患者さんも同じように不満を抱えている事が考えられるため、1人だけ特別扱いすると、今度は別の患者さんが強い不満を抱くようになります。
次回以降も同じ要求をされたり、助長させる恐れがあるため、その場しのぎにしかならない対応はしないように注意しましょう。
弁護士や警察への相談も視野に入れる
どれだけ誠実に対応して、陳謝し続けてもクレームを入れた患者の怒りが収まらない場合は、弁護士や警察への相談も視野に入れましょう。
大事にしたくないという気持から、スタッフだけで安易な対応をしてしまうと、より大きなトラブルに発展する恐れがあります。
暴言をはいたり、暴力を振るうようなことをする患者は放置できません。他の患者さんにまで被害が及ぶ可能性がありますし、自院の大事なスタッフが傷つけられれば経営にも影響が出てきます。
危険を感じた時点でいつでも通報できる準備はしておきましょう。
医師法の応召義務と「正当な理由」とは
診療を拒否したくなるほどのクレーマー患者が来たとしても、「医師法19条1項の応召義務(※1)」の存在から簡単に断ることはできません。
※1…参照:医師法 | e-Gov法令検索
医師法19条の第1項には「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定められています。
クレーム自体が正当な事由2該当するのかはその場で判断できるか難しいと思います。
厚生労働省が公表している「医師の働き方改革の推進に関する検討会(※2)」のデータでは
診療の求めに応じない・または患者を診療しないことが正当化される場合についての整理がされています。
まず、診療時間外、勤務時間外で診療が不可能な場合は診療しなくてよいとされ、病状の深刻度が高く、緊急対応が必要であるなら、公法上・私法上の責任には問われないものの診療することが望ましいとされています。
患者の迷惑行為に関しては、治療内容と無関係のクレームを続けている場合に限り、患者と医者の信頼関係が喪失したなら診療を行わないことが正当化されます。
治療費の不払いについても、悪意を持って支払わない場合は、診療しないことが正当化されます。
ただし、最終的には正当かどうかの判断は行政や裁判所が行いますので、心配な場合は医療に詳しい弁護士にご相談下さい。
※2…参照:応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について
クレームへの事前対策方法
クレームは事前に対策を打っておくことで、被害を最小限に抑えられます。
事前対策方法は、以下の2つをおすすめします。
- クレーム対応マニュアルの作成
- クレームを削減する施策の立案
クレーム対応マニュアルの作成
対応方法をマニュアル化して、スタッフごとの対応に差が生まれないように意思統一を図りましょう。
小さなクレームであれば、マニュアルを読んでおくことで若手スタッフでも対応しやすくなります。
マニュアルを作成して対応方法を統一しておけば一貫した対応が可能になり、「前はこういう対応をしてもらえたのに」というクレームも生まれづらくなります。
マニュアル通りに対応しても患者の怒りが収まらない場合は、上司を呼ぶか、事後にマニュアルを改善するなどしましょう。
クレームを削減する施策の立案
院内で過去に起きたクレームの内容を分析して、クレームを削減する施策を行うのも重要です。
スタッフ同士で話し合うための「クレーム検討委員会」を設置し、課題を洗い出し改善に向けて取り組むのも有効です。
現状把握のために、スタッフや患者さんからアンケートを取れば、良いところ・悪いところを集計し分析することで、何が自院に足りないのかを見極めることもできます。
待ち時間に対するクレーム対応方法
病院・クリニックへのクレームの多くは待ち時間の長さに対する不満です。
「予約をしたにもかかわらず、30分、1時間と待たされている」というクレームは病院に対する不審感につながるため、可能な限り改善していきたいです。
診療内容に満足してもらっても、その後の会計の待ち時間が長いとイライラしてしまうという患者さんもいらっしゃいます。
待ち時間が長くなってしまっているなら、改善できるように工夫をしましょう。
待ち時間を短縮できるシステムの導入
待ち時間に対するクレームへの対処法としては、待ち時間を短縮できるシステムを導入することが挙げられます。
以下の3つのシステムが待ち時間短縮に効果的です。
- 診療予約システム
- Web問診システム
- 自動精算機
診療予約システム
診療予約システムは、インターネットや電話の自動音声による予約受け付けが可能なシステムです。
パソコンやスマートフォンから手軽に予約ができ、患者の好きなタイミングで来院日時を選べます。
患者はスマートフォンから自分が何番目か順番を把握でき、来院時間を調整できるため大きな待ち時間が発生しにくくなります。
診療までの待ち時間を有効に使えることになり、順番が近くなるまでは院外で過ごすということも可能になり、院内の混雑緩和にも繋がります。
Web問診システム
Web問診システムは、事前にWeb上で問診票を記入できるシステムです。
患者は紙の問診票に書き込む必要がなくなるため、時間の短縮や手間が省けて快適性がアップします。
受付での事務処理も減るため、患者・スタッフの双方にメリットがあります。
自動精算機
自動精算機は、会計時に金銭の授受・精算を自動で行うことができる機械です。
電子カルテと連携すれば会計の計算も自動で行ってくれて、患者1人で完結します。
患者は会計の順番待ちの時間がなくなり、ストレスなく会計を終えることが可能になります。
まとめ:クレーム対応の対策を講じ、クレームを最小限に抑えよう
クレーム対応は患者の怒り具合など、時と場合によって対応方法が異なりますが、マニュアルを作成しておくとある程度一貫した対応が可能となります。
クレームが発生してしまえば労力と時間を割くこととなり病院・クリニックにとっても少なからず損害が発生します。
事前にクレームの対策を講じ、被害を最小限に抑えましょう。