昨今、病院のDX化(デジタル化)や電子カルテの導入を多く耳にするけれど、オーダリングシステムとの違いがよくわからない……。
そんな方に向け、本記事ではオーダリングシステムについて解説します。
この記事を読めば、オーダリングシステムの基本機能から導入のメリット・デメリット、電子カルテとの違いや導入方法までわかります。
オーダリングシステムの導入は、業務効率化の鍵の一つですので、まずは知識を身につけていきましょう。
この記事の内容
オーダリングシステムとは医師や看護師の指示を電子化して伝達するシステム
オーダリングシステムは、パソコン上で医師が看護師や薬剤師への指示を入力し、全ての部署がその情報を閲覧できるシステムのこと。伝達速度が口頭や書類よりも確実かつ迅速であるため、昨今の医療現場では取り入れられつつあります。
例えば、診察を行って薬が必要な患者がいる場合には薬剤師に処方薬の伝達、検査が必要なら検査技師にレントゲンの指示など、複数の職種への伝達を迅速かつ正確に行えることが魅力の一つです。
オーダリングシステムの基本機能
ここでは、オーダリングシステムの主な基本機能を解説します。
- オーダ指示入力機能
- カレンダー入力機能
- 算定漏れ防止の伝達機能
1.オーダ指示入力機能
オーダリングシステムの核となる機能で、医師の指示を入力し、データとして保管できる機能です。
オーダ指示は通常、病院内のテンプレートを使う現場が多いため、すでに紙で利用していた指示伝票をオーダリングシステム上に反映、テンプレートとして使い回せる機能もあります。
また、チェックボックスやクリックすると表示される機能なども搭載されており、カスタマイズを行うことでより効率的な伝達ができるでしょう。
2.カレンダー入力機能
カレンダー入力機能は、現在入力されているオーダの情報をカレンダー形式で確認できる機能です。注射や投薬が必要な患者がいる場合「何時にどの注射を打つか」をカレンダー上で確認できます。
一般的なカレンダーアプリのように、直感的な操作で内容の入力が行えるため、パソコンの扱いに慣れていない医師でも簡単かつ正確に入力可能なことがポイントです。
3.算定漏れ防止の伝達機能
オーダリングシステムは診療報酬点数の請求を行うためのデータを反映させることができ、医療事務の助けにもなってくれます。
例えば、算定漏れが起きがちな医師の医学管理や在宅指導料などの情報を抽出し、通知する機能が備わっているため、未然に算出漏れを防げます。
オーダリングシステムの普及率
オーダリングシステムの普及率は、令和2年における厚生労働省のデータによると、一般病院で62%(4,449/7,179)と発表されました。
中でも400床以上の大規模病院では93.1%、200床未満の小規模では53.3%と、規模が大きくなればなるほど高い普及率を誇ります。
患者数が増えるほど指示も膨大な量になるため、一括で医師の指示を管理できるオーダリングシステムの恩恵が大きくなると言えるでしょう。
ここで注意が必要なのは、電子カルテとオーダリングシステムは異なるということ。違いについては以降で解説します。
オーダリングシステムと電子カルテの違い
オーダリングシステムは、医師の指示を確認するもので、電子カルテは患者の情報を一括で管理できるものです。
言い換えると、電子カルテは患者の全体情報、オーダリングシステムは一部の機能、とも言えます。一般的には、オーダリングシステムの導入後に電子カルテも導入することが多く、電子カルテのみを使用するケースはあまり推奨されません。
実際に使われているソフトは、電子カルテ内にオーダリングシステムが搭載されているものもあれば、別々のソフトとして起動するものもあります。
オーダリングシステムを導入する4つのメリット
オーダリングシステムを導入するメリットは非常に多いです。ここでは主な4つのメリットを見ていきましょう。
- 医師の指示出しが手軽になり、確認がしやすい
- 患者の待ち時間短縮につながる
- 人的ミスの防止につながる
- 経営分析・研究利用のためのデータを蓄積できる
1.医師の指示出しが手軽になり、確認がしやすい
オーダリングシステムを使用すると、医師の指示出しがかなり手軽になります。手書きだとどうしても急いで記載するため、字が崩れ看護師からの確認があったりと無駄な時間が発生することが多くあります。
しかし、オーダリングシステムであれば入力もスムーズであり、誰が見てもわかる状態になるため、指示を出す側、受ける側双方にとってメリットがあります。
また、入力したデータは保存され、検索が可能なため必要な情報をすぐに確認できるのも嬉しいポイントです。
2.患者の待ち時間短縮につながる
院内での連携がスムーズになることで、患者の待ち時間短縮につながります。
特に、伝票のやりとりは各部門毎に行われるため、オーダリングシステムを活用して一括で指示を出せれば多くの部署が効率化に動けます。
3.人的ミスの防止につながる
オーダリングシステムは、効率化だけでなく人的ミスの防止にもつながります。
医療現場では、重複検査や投薬、請求漏れ、伝票届忘れなど人的ミスによるインシデント・アクシデントが見られます。
オーダリングシステムを使えば、データ上で何をどこまで行ったかを確認でき、「伝票を渡す」という工程そのものが無くなるためミスを事前に防げます。
4.経営分析・研究利用のためのデータを蓄積できる
オーダリングシステムは臨床だけでなく、経営分析や研究利用のためのデータ蓄積にも役立ちます。
例えば、特定の疾患の臨床データが必要な際、紙のカルテであれば「探して、まとめて、写しをとって、元に戻す」という工程が必要でした。しかし、オーダリングシステムや電子カルテを使用すれば「検索してまとめる」という工程のみで完了します。
入力していくだけで、後々役に立つデータが蓄積されていくのもオーダリングシステムの強みの一つです。
オーダリングシステムを導入する2つのデメリット
オーダリングシステムを導入するデメリットは、大きく2つあります。
- 停電やサーバーダウン時は使用不可になる
- 導入・維持にコストがかかる
1.停電やサーバーダウン時は使用不可になる
オーダリングシステム最大のデメリットは、停電やサーバーダウン時に使用不可になることです。
日本は地震や台風などの災害が多く、電線や地中のケーブルが損傷することによる停電がしばしば起きます。
停電中にも稼働できるように、予備電源の確保やサーバーダウンに対応するための人員の確保、特定の情報を紙で印刷しておく仕組みなど、緊急時にも対応できる仕組み化が必要です。
2.導入・維持にコストがかかる
オーダリングシステムの導入にはかなりの金銭コストがかかります。以下は一例です。
病床規模 | 導入システム | 金銭コスト |
---|---|---|
100床〜199床 | オーダリングシステム+電子カルテ(6年リース) | 4億円前後 |
200床〜299床 | オーダリングシステム+電子カルテ(5年リース) | 4億円前後 |
400床〜499床 | オーダリングシステム+電子カルテ(購入) | 7億円前後 |
500床〜599床 | オーダリングシステム+電子カルテ+その他システム(購入) | 13億円前後 |
※上記は参考価格です。細部は病院の規模やオーダリングシステムの種類により異なります。
今紹介したように、導入には数億円かかることが多いです。また、年間の保守管理にも500万円前後かかるため、医業収入と照らし合わせての導入を推奨します。
また、保守管理には金銭コストだけでなく、人的コストもかかります。例えば、操作方法を教育する時間であったり、医療クラークを確保する必要があったりなど。
「導入時は金銭のコスト」「維持には管理費と人的コスト」がかかることを覚えておきましょう。
オーダリングシステムの3つの種類と導入方法
オーダリングシステムには、大きく3つの種類があります。
- パッケージ型:ソフトを購入する方法
- オンプレミス型:院内にサーバーを設置する方法
- スクラッチ型:自分で作る方法
それぞれの種類と導入方法についてみていきましょう。
1.パッケージ型:ソフトを購入する方法
パッケージ型は、標準機能搭載のソフトを購入して利用するイメージです。
購入すればすぐに使用できる点が魅力で、クラウド型を利用すれば院内にサーバーを設置する必要がありません。
導入コストが最も安く、難しい設定を行わずに使い始められるのがパッケージ型の魅力です。
ただし、多くの病院に対応できるように作られた汎用型のものがほとんどであり、病院独自の方法は一部適応できない恐れがあります。
また、クラウド型は外部と通信するため、セキュリティリスクが発生することには注意しましょう。セキュリティリスクを低下させたい方には、次に紹介するオンプレミス型がおすすめです。
※パッケージとオンプレミスのハイブリッド型もあります
2.オンプレミス型:院内にサーバーを設置する方法
オンプレミス型は、病院内にサーバーを設置して院内の通信システムを構築した上で運用する方法です。
外部との通信を行わないため、セキュリティリスクを低下させ、データ処理がスムーズに行えるのが魅力です。また、オンプレミス型を使用すれば、病院独自の方法にも対応できるでしょう。
ただし、サーバーの導入やシステム構築など専門的な知識が必要となるので金銭・人的コストがかかります。
3.スクラッチ型:自分で作る方法
スクラッチ型は、ゼロからシステムを構築する方法です。
最もカスタマイズ性が高く、ほぼ完全に病院独自のやり方に適応したオーダリングシステムを作り上げることが魅力の一つ。従来とやり方を変えることなく電子化できます。
ただし、開発期間が1年以上かかるケースが多いこと、より専門的な知識が必要で金銭コストが最も高い点には注意しなければなりません。
これから開業医となるのであれば、オーダリングシステムに合わせた仕組み作りをするのも一つの手です。基本的にはパッケージ型で、セキュリティリスクなどの観点で不安がある場合はオンプレミス型の導入を検討しましょう。
まとめ:オーダリングシステムを導入して医療DXを推進しよう
紙のカルテから、オーダリングシステムや電子カルテを使用し、医療DX化を推進することでより効率的に、より事故を少なく病院を運営できます。
初期費用や維持管理のコストはかかりますが、それに見合った効果を発揮してくれるシステムですので、選択肢の一つとして覚えておきましょう。
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