「院外薬局と院内薬局はどちらを選ぶべき?」
「院外薬局を選ぶ際のポイントは?」
クリニックを開業する際は、薬を処方する方法について検討しておかなければなりません。
処方箋を患者に渡し、最寄りの調剤薬局で薬を処方してもらう「院外処方」「院外薬局」が一般的となりつつあります。
院外薬局にはメリットも多いものの、患者の負担が増えるといったデメリットもあるため、採用するか否かは慎重に検討を重ねなければなりません。
本記事では、院外薬局と院内薬局の違いや、院外薬局のメリットについて解説します。
院外薬局を選ぶ際のポイントも解説するので、開業を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
この記事の内容
院外薬局とは?
院外薬局とは、処方箋をもとに薬を処方してくれる、医療機関の外部にある薬局のことです。
医療機関で診察を受けた後で処方箋を受け取り、別の場所にある薬局で薬を受け取った経験がある方も多いでしょう。
院外薬局で患者が薬を受け取る仕組みを「院外処方」と言い、逆に診察を受けた医療機関でそのまま薬を受け取れる仕組みを「院内処方」(院内薬局制)と言います。
現状の院外薬局・院外処方率は79.1%
院外薬局・院外処方を採用している医療機関は多く、全体の8割近くにおよびます。
厚生労働省が発表している「令和4年社会医療診療行為別統計の概況」によれば、院外処方を採用している医療機関は全体で「79.1%」で、前年に比べて0.8%増加しました。
病院・診療所別に見ると、病院は「81.5%」で前年比0.4%増加、診療所は「78.4%」で前年比0.9%増加しています。
院外薬局・院外処方が多い理由
院外薬局・院外処方を約8割もの医療機関が採用しているのには、以下の4つの理由があります。
- 厚生労働省が「医薬分業」を推進している
- 患者にとっての利便性が高い
- クリニック側で薬局を設ける必要がない
- 収支面でもメリットがある
厚生労働省が「医薬分業」を推進している
医療機関で院外薬局が多いのは、厚生労働省が「医薬分業」を推進しているからです。
医薬分業とは、治療と薬の処方とを分け、それぞれを医師と薬剤師が分業して担当すべきという考え方を指します。
患者が薬について薬剤師に詳しく確認できたり、薬局に薬の管理を一任することで薬害のリスクを防いだりといったメリットがある仕組みです。
医薬分業が推進されれば、薬は病院や診療所ではなく薬局が処方することになるため、院外薬局の採用が進みます。
患者にとっての利便性が高い
院外薬局は、患者にとって利便性の高い仕組みでもあります。
薬局へと移動する手間はかかりますが、薬について薬剤師に詳しく確認できるといったメリットは魅力です。
処方内容のダブルチェックにもつながるので、患者の薬害リスクを軽減できるのも、院外薬局を採用するメリットの1つでしょう。
クリニック側で薬局を設ける必要がない
院外薬局を採用すれば、クリニック側で薬局を設ける必要はなくなります。
特に小規模なクリニックは、薬を保管するためのスペースを院内に確保するのが難しい場合もあるでしょう。
調剤の手間も削減できるため、クリニックにとっては院外薬局の採用にも魅力があります。
収支面でもメリットがある
院外薬局には、収支面でもメリットがあります。
院内処方よりも診療点数が高くなるのが、クリニックが院外薬局を採用するメリットの1つです。
在庫管理や調剤にかかる人件費の削減にもつながるため、新しい医療機器の導入などに予算を充てることもできるでしょう。
院外処方と院内処方の違い
院外処方と院内処方には、以下の3つの点に違いがあります。
- 診察とお薬の処方にかかる待ち時間
- 在庫の状況と保管スペース
- 在庫の余りによる赤字リスク
診察とお薬の処方にかかる待ち時間
院内処方よりも院外処方の方が、患者の待ち時間は短縮できます。
院内処方の場合は、クリニックで薬を調剤する分の手続きがあり、診察と処方にかかる時間は長くなってしまいます。
もちろん、院外薬局でも待ち時間が発生することはあるでしょう。
しかし院外薬局の場合は、患者の好きなタイミングで薬を受け取れるため、時間の調整がしやすいというメリットがあります。
在庫の状況と保管スペース
在庫管理と保管スペースに関しても、院外薬局の方が優れています。
院内処方の場合、クリニック側が薬の在庫管理や保管スペースの確保をしなければなりません。
余計な手間と人件費がかかり、院内の空間も圧迫します。
よって、小さいクリニックや人件費に余裕がないクリニックの場合は、院外薬局の利用を検討してみてください。
在庫の余りによる赤字リスク
院外薬局を採用する場合は在庫が余るリスクはありませんが、院内薬局を採用する場合は赤字のリスクがあります。
薬には期限があるため、在庫をいつまでも保管しておくことはできません。
在庫が余ってしまうと、スペースをとるだけでなく赤字のリスクにもつながってしまい、経営にも悪影響があります。
医院開業時の院外薬局の選び方
院外薬局には多くのメリットがあるため、開業時に採用を検討している方も多いでしょう。
医院開業時に院外薬局を選ぶ場合は、以下3つのポイントに注目してください。
- 医院からのアクセスは良好か
- 患者の利便性を考慮できているか
- 自院の理念や考え方を共有できるか
医院からのアクセスは良好か
医院からのアクセスが良い薬局を選びましょう。
院外薬局を採用する場合、患者は薬を受け取るために薬局まで移動する必要があります。
院外薬局までのアクセスが悪いと患者の負担がさらに大きくなってしまうため、事前にチェックしておかなければなりません。
患者の利便性を考慮できているか
院外薬局は、患者の利便性を考慮して選びましょう。
患者の負担を軽減するために、以下のポイントに注目して、利便性の高い薬局を選択してください。
- 薬局が通りに面しているか
- ドラッグストアなどに併設されているか
- 複数の医療機関の処方箋に対応しているか
利便性の高さは、アクセスの良さだけではありません。
ドラッグストアをはじめ、生活に根ざした店舗に併設される薬局や、複数の医療機関に対応する薬局も利便性向上のポイントです。
自院の理念や考え方を共有できるか
自院の理念や考え方を共有できる薬局を選ぶことも大切です。
院外薬局を採用する場合、医院と薬局とが協力し合えなければ、患者に最適な治療を提供することはできません。
事前に自院の理念や考え方を共有しておかないと、治療方針や薬の処方意図がうまく伝わらず、適切な治療ができない恐れもあります。
開業前に、薬局の管理薬剤師とコンタクトをとっておきましょう。
院外薬局についてのよくある質問
最後に、院外薬局についてのよくある質問を紹介します。
院外処方と院内処方はどちらが安いですか?
院外処方よりも院内処方の方が、患者の負担する額は安くなります。
というのも、調剤薬局に依頼する手数料がかかってしまい、点数が高くなるからです。
しかし、昨今では医療費削減の傾向から、公定価格の薬価は年々低くなっています。
よって院内処方を導入するメリットは薄いでしょう。
院内処方が違法になるケースはありますか?
院内処方が違法になるのは、事務員などのスタッフが薬の調剤を行うことで「無資格調剤」とみなされるケースです。
調剤は薬剤師の独占業務で、本来は薬剤師でないものが調剤を行うことは禁止されています。
特定の条件下で医師による調剤が認められるケースがあるものの、事務員や看護師による調剤が無資格調剤とみなされ、逮捕された事例も過去にありました。
薬剤師以外が調剤することが違法になるケースもあるため、院内薬局を採用する場合は注意が必要です。
まとめ:院外薬局は院内処方との違いを理解して長期的な視野で決めよう
院外薬局は、診療所や病院が出した処方箋をもとに、患者に薬を渡す薬局です。
院外薬局にはメリットが多く、日本ではおよそ8割の医療機関が院外薬局を採用しています。
患者の自己負担額や移動の手間がかかるといったデメリットもあるため、院外薬局と院内薬局のどちらを採用するか、検討を重ねる必要があるでしょう。
医院の開業時には、患者のアクセスや利便性はもちろん、自院の理念や考え方を共有できるかどうかもふまえ、院外薬局を選ぶ必要があります。
患者に最適な医療を提供するために、院外薬局選びは慎重に行ってください。