クリニックの経営は、医師しかできないと思われている方も多いでしょう。
しかし、一定の条件を満たしていれば医師以外でも病院の経営は可能です。
この記事では、医師以外がクリニックを経営する具体的な方法や、メリット・デメリットについて解説します。
非医師でクリニックの経営をしたいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の内容
個人のクリニック経営には医師免許が必要
クリニックの経営主体は、個人と法人の2種類があります。
クリニックを経営するために医師免許が必ず必要なのは、個人クリニックの場合です。
医療機関では、開設・経営に対して責任を担う「開設者」と、医療機関を管理する「管理者(院長)」が存在します。
個人クリニックの場合、開設者=管理者となるため、医師免許を保有する医師以外が経営主体にはなれません。
法人のクリニック経営は医師以外でもできる
個人ではなく法人の場合、クリニックを経営するために必要な資格はありません。つまり、医師免許のない人でも経営はできます。
しかし、法人クリニックの開設者として病院を経営するためには、一定の条件を満たさなければなりません。
ここからは、医師以外でも実質的にクリニック経営できる4つの方法を紹介します。
- MS法人
- 医療法人
- 医療法人のM&A
- 一般社団法人
MS法人
MS法人とは、メディカル・サービス法人の略称です。病院の運営に関わる事業を行う法人を指します。
MS法人の代表になれば、医師でなくても実質的にクリニックの経営が可能です。
MS法人の業務は、会計や保険請求、医薬品や医療機器の販売、人材派遣など、医療行為に則さない事業のため、一般的な法人と同じ扱いになります。そのため、法令上の医療機関には該当せず、医師以外でも経営できるのです。
MS法人として外部からクリニックの経営に携わり、実質的に管理するパターンも検討できます。
医療法人
医療法人とは、医療法の規定に基づいて病院を開設できる法人のことです。
医療法人であれば、社員総会の過半数を占めると、医師以外でも開設者となり経営権を得られます。
ただし、医療法人における代表は理事長であり、病院を経営するためには理事長に就任しなければなりません。
理事長については、原則として医師もしくは歯科医師から選定すると医療法で定められています。
例外として、都道府県知事の許可を受けた場合は、医師や歯科医師以外でも理事長として認められます。
この場合、一定の運営実績が求められるうえに手続きも煩雑なので、最初から医療法人を設立するのは一般的ではありません。
いきなり医療法人としてクリニック経営するのは簡単ではないと理解しておきましょう。
医療法人のM&A
上記で説明したように、医療法人を新設して経営者になるパターンはハードルが高いといえます。
非医師が医院を経営する方法としては、既存の医療法人を買収(M&A)し、社員として参加するのが現実的です。
医療法人には「出資持分あり」と「持分なし」の2種類があります。2007年4月1日以降「持分あり」の医療法人は設立できなくなっています。
「持分あり」の医療法人では、財産である出資持分を買い取って買収するのが通常です。
また「持分なし」の医療法人では、出資持分の代わりに基金を買い取ります。
いずれの場合も、社員総会において議決権の過半数を占めたうえで、実質的なクリニック経営者となります。
一般社団法人
開設者を一般社団法人にすれば、医師以外でも実質的にクリニックを経営できます。
一般社団法人とは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立される、営利を目的としない法人格です。
医療法人と比較して設立は容易で、誰でも理事長に就任できるので、医師以外でも経営に携わりやすいといえます。
ただし、一般社団法人は非営利性が厳しくチェックされる点には注意が必要です。
また、一般社団法人の開業を認めるかどうかは都道府県によって異なります。地域によっては認可のハードルが高く設定されており、状況次第では開業が認められないケースもあります。
さらに、一般社団法人の設立からスタートするため、開業まで時間がかかるのも難点です。基本的に半年以上はかかると見込んで開業手続きを進めましょう。
医師以外がクリニックを経営するメリット
非医師が病院を経営するにはさまざまな条件があり、医師が経営するよりも難しいと感じるかもしれません。
しかし、医師以外が病院を経営すると、以下のようなメリットがあります。
- 医師が医療行為に専念できる
- 院長が開業手続きで手間を取られずに済む
- 経営のプロによる効率的な運営ができる
ここからは、非医師がクリニックを経営するメリットについて詳しく解説します。
医師が医療行為に専念できる
経営者が診察をできないのはデメリットに感じるかもしれませんが、反対に経営業務に集中できるのはメリットでしょう。
開業医として務める場合、診察をしながら財務管理やスタッフ採用など経営業務もこなさなければならないため、院長の負担が大きくなりがちです。
一方、医療行為は医師に任せて非医師が経営に集中すると、それぞれの業務の質が向上し、結果的に安定した運営につながります。
院長が開業手続きで手間を取られずに済む
診療を担当する医師とは別の人物が病院を経営すると、院長が開業手続きで手間取らないのも大きなメリットです。
クリニックを開業する場合、物件探しや医療機器の手配、開業届の申請など、多くの手続きが必要となります。知識や経験のない医師が一人で対応するとなると大変です。
しかし、非医師が主体となって開業手続きを進める場合、院長自身は手間をとられないので、仕事に専念しやすくなります。
経営のプロによる効率的な運営ができる
医療の技術やノウハウがあるからといって、経営者として成功するとは限りません。
経営ではマーケティングや営業、広報、財務管理、資金管理など、さまざまな項目に関する知識が求められます。
医師本人が開業するよりも、医師でない経営のプロが開業したほうが、開業後の運営もスムーズになる可能性が高いでしょう。
医師以外がクリニックを経営するデメリット
非医師が病院を経営するメリットは少なくありませんが、以下のようなデメリットも想定されます。
- 経営陣と現場の対立が生まれやすい
- 利益を出すのが難しい
- 手続きなどの意思決定が遅くなる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
経営陣と現場の対立が生まれやすい
医師以外が経営を行う場合、医療現場で働く医師や看護師などのスタッフと経営陣との間で、対立が生まれやすくなります。
この理由は、それぞれの役割や仕事内容が異なるため、お互いの考えを理解しにくく、譲れない点も出てくるからです。
経営陣と現場の方針が異なれば、病院の運営に支障をきたすことになります。最悪の場合、経営を続けるのが困難になるかもしれません。
対立を深刻化させないためにも、お互いを尊重する言動が重要になります。
利益を出すのが難しい
経営者と医師を分けるケースでは、医師が経営をするケースと比べて、役員報酬の支払い分が増えます。そのため、資金面での負担が大きくなり、利益を出すのが難しくなるのもデメリットです。
たとえ赤字であっても、医師に給与は支払わなければならないため、人件費を見据えた資金を事前に準備しておく必要があります。また、一般的な職種と比較して、医師への給与は高額である点にも注意が必要です。
人件費の資金をあらかじめ見積もり、経営が軌道に乗り始めるまではどこから捻出するのかも考慮しておきましょう。
手続きなどの意思決定が遅くなる
経営者の提案や要望がスムーズに通ればいいですが、医師側の反発によって意見がまとまらない場合には、意思決定までに時間を取られてしまいます。
変化の激しい医療業界においてはスピード感が欠如すると、競争力を低下させる可能性があります。
意思決定が遅い状況を避けるために、事前に締め切りを設定してスケジューリングしておくのが大切です。
クリニックの経営は医療法の遵守が必須
病院を開設する場合は「医療法」に基づく規制を遵守しなければなりません。医療法とは、医療提供施設の開設・管理に関する項目を定めた法律です。
医療を受ける者の利益の保護や、良質かつ適切な医療の効率的な提供の確保などを目的としています。
医療法で定められる主な規制の内容は、以下のとおりです。
- 医業・歯科医業・助産師の業務等に関する広告規制
- 病院・診療所・助産所に関する規制
- 医療法人に関する規制
医療法の規定に違反した病院に対しては、行政処分が行われる可能性もあります。クリニックを経営する際は、必ず医療法に目を通しておきましょう。
まとめ:医師以外でも条件を満たせばクリニック経営はできる
医師免許を持っていなくてもクリニック経営は可能ですが、決して容易ではありません。
本記事でも解説したとおり、いくつかの方法はあっても、医師が開業する場合に比べて運営コストは増えるのが現実です。
非医師が病院を経営するのは、メリット・デメリットがあります。それぞれを把握したうえで、クリニック経営に乗り出すべきかどうか判断しましょう。