従業員の健康管理や職場の安全管理において、重要な役割を果たしている産業医。ストレスチェックにおいても、産業医は欠かせない存在です。
この記事では、ストレスチェックと産業医の役割について詳しく解説します。
ストレスチェック制度の概要から、産業医が行う面接指導の実施手順や注意点なども確認していきましょう。
この記事の内容
ストレスチェックにおける産業医の役割は面接指導
ストレスチェックにおける産業医の主な役割は面接指導です。
産業医面談は、2014年の労働安全衛生法の改正により誕生したストレスチェック制度の一環です。
面接指導では、労働者の心身や勤務状況を確認し、メンタルヘルス不調のリスクを評価します。
ストレスチェック後に産業医面談をおこなう目的は、従業員のメンタルヘルス不調の予防です。
従業員にストレスが蓄積されると、業務効率の低下や体調不良の原因となるため、産業医の面接指導によって早期に対処しましょう。
参考:医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル|厚生労働省
参考:改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について|厚生労働省
ストレスチェック後の産業医面談をするメリット
ストレスチェック後の産業医面談のメリットは、従業員と企業の双方に多角的な効果をもたらします。
ストレスチェック後の産業医面談は、従業員が自分自身の健康状態を理解し、適切なサポートを受ける重要な機会です。
企業側も、従業員ケアを通じて生産性向上やリスク低減など多くの利点を享受できます。
ここからは、従業員と企業に分けて、それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
従業員にとってのメリット
ストレスチェック後に産業医面談を受ける従業員側のメリットは、以下の4つです。
- メンタルヘルス悪化の予防
- 業務負担の調整可能性
- セルフケア能力の向上
- 相談しやすい関係構築
メンタルヘルス悪化の予防
ストレスの兆候を早期に発見し、産業医の助言を通じて不調を未然に防げます。特に高ストレス者には、リラクゼーション法や生活習慣改善策などの具体的な対処法を学ぶ機会が提供されます。
業務負担の調整可能性
ストレスの原因(過重労働・人間関係など)を特定し、産業医が職場環境改善や業務内容の調整を企業に提案します。これにより、従業員の働きやすい環境構築が促進されます。
セルフケア能力の向上
産業医からストレス管理の専門的指導(運動方法・栄養バランスなど)を受け、長期的な健康維持スキルを習得できます。
相談しやすい関係構築
面談を通じて産業医との信頼関係が築かれ、将来的なメンタルヘルス問題発生時にも早期相談が可能となります。
企業にとってのメリット
ストレスチェック後に産業医面談を実施する企業側のメリットは、以下の4つです。
- 生産性・離職率改善
- 職場環境の最適化
- 法的リスク軽減
- 企業ブランドの強化
生産性・離職率改善
メンタルヘルス不調による休職・離職を防止し、人材流出コストの削減が期待できます。従業員の意欲向上により、業務効率が改善されるのもメリットです。
職場環境の最適化
面談結果から職場全体のストレス要因を分析し、組織的な改善(業務配分の見直し・コミュニケーション強化など)が可能です。
法的リスク軽減
労働安全衛生法に基づく義務(高ストレス者の面接指導要請時)の履行によって、労務トラブルを予防できます。
企業ブランドの強化
健康経営の推進により、働きやすい職場としての評価向上が期待され、優秀な人材確保に有利になります。
ストレスチェックから産業医の面接指導に進む流れ
ストレスチェックの実施流れは、主に以下の7ステップに分かれます。
- ストレスチェックを実施する
- 従業員の結果を通知する
- 面接指導の対象者を選定する
- 産業医の面接指導を実施する
- 事業者へ面接指導後の報告をする
- 労働基準監督署へ報告をする
- 労働環境改善を実施する
ここからは、各段階の具体的な内容を解説します。
1.ストレスチェックを実施する
まずは、事業者がストレスチェックの目的や方法を明確化し、産業医や保健師、人事担当者などで実施チームを編成します。
実施するにあたって、従業員へストレスチェックの目的の周知も必要です。メンタルヘルス不調の予防と職場改善が目的であると明確に伝達しましょう。
準備が整い次第、紙媒体またはWebツールで従業員に質問票を配布して、ストレスチェックを実施します。
2.従業員の結果を通知する
ストレスチェック結果は従業員に直接通知され、「高ストレス者判定」の有無が伝えられます。
個人結果の通知は、従業員の同意なしで事業者は閲覧不可である点には注意が必要です。
3.面接指導の対象者を選定する
産業医が結果を分析し、心理的負担が一定基準を超えた高ストレス者を面接指導の対象者として選定します。
選定基準は、ストレスチェック項目(ストレス要因・心身の反応・周囲のサポートなど)の合計点と、心身の反応項目の突出度で判断します。
4.産業医の面接指導を実施する
面接指導の準備として、事業者は産業医に対し、該当労働者の勤務時間や業務内容、ストレスチェック結果などを提供します。
従業員からストレスチェック後の産業医面談の申し出があった場合は、その後、労働者と産業医のスケジュールを調整し、対面またはオンラインで面接指導を実施します。
なお、面談は速やかに面談を実施するのが望ましいです。産業医面談は、申し出があってから1ヶ月以内を目安に実施するとよいでしょう。
面談内容は、従業員の状況に応じて柔軟に対応するのがポイントです。
例えば、長時間労働者には疲労蓄積状況や勤務状況を確認し、高ストレス者にはストレス要因や対処法について指導を行います。
5.事業者へ面接指導後の報告をする
面接後、産業医は事業者に対し結果報告書を提出します。
報告書の内容は労働者の同意範囲内で作成され、プライバシー保護が義務付けられています。
6.労働基準監督署へ報告をする
ストレスチェック終了後は、調査結果の報告書を所轄の労働基準監督署に提出する義務があります。
提出しなかった場合は、労働安全衛生法第120条第5号の規定に基づき、罰則の対象となります。
提出義務のある事業者は、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。50人未満の事業場には提出義務はありません。
提出方法は、所轄の労働基準監督署へ持参・郵送、またはe-Gov(電子申請)を利用できます。
参考:ストレスチェック制度関係 Q&A|厚生労働省
参考:心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書|厚生労働省
7.労働環境改善を実施する
事業者は産業医の意見を尊重し、必要に応じて労働環境改善を実施します。
産業医の報告書をもとに、労働時間の見直しや残業の制限、休暇の取得勧奨、就業環境の調整など、必要な措置を講じましょう。
参考:医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル|厚生労働省
ストレスチェック後の産業医面談にかかる費用相場
ストレスチェック後の産業医面談費用は、1回あたり1.5万〜4万円程度が相場です。
標準的な30〜60分の面談で1.5万〜4万円が基本的なラインですが、契約形態や付帯サービスによって幅が生じます。
正確な見積もりに関しては、事業場の規模や希望するサービス内容を提示したうえで、産業医へ問い合わせましょう。
ストレスチェック後に産業医が行う面接指導の注意点
ここからは、ストレスチェック後に産業医が行う面接指導の注意点を解説します。
- 従業員が面接を希望した日から1か月以内に実施する
- 産業医面談には法的義務がないので従業員は拒否できる
- リラックスできてプライバシーが保たれる場所で実施する
- 面接指導で発生する費用は事業者が負担する
- 産業医の面接指導の記録は5年間保管する
それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
従業員が面接を希望した日から1か月以内に実施する
高ストレス者と判定された従業員が面接指導を希望した場合、事業者は申し出を受けてから1か月以内に医師による面接指導を実施する義務があります。
厚生労働省の規定では、面接指導の実施日時を「面接指導申出書が提出されてから30日以内に設定」するよう明記されています。
産業医面談には法的義務がないので従業員は拒否できる
従業員には面談を受ける法的義務はなく、任意で拒否できます。
会社側は労働者に対して面接指導の申出を勧奨できますが、従業員の同意なしに強制はできません。
また、面談を拒否した従業員に対し、解雇や降格などの不利益な取扱いも禁止されています。
事業者は、従業員の意思を尊重しつつ、自主的な面談参加を促す姿勢が求められます。
リラックスできてプライバシーが保たれる場所で実施する
ストレスチェック後の産業医面談は、従業員がリラックスでき、プライバシーが確保された環境で実施しましょう。
具体的には、周囲の目を気にせず安心して話せる個室が理想的です。このような環境を整えると、従業員はストレス状況や健康状態について率直に相談しやすくなります。
さらに、面談中に他者が入室しないよう配慮し、十分な時間を確保して従業員が自由に話せるようにするのも重要です。
また、産業医には守秘義務が課されており、面談内容が外部に漏れることはありません。この点も従業員の安心感を高める要素となっています。
面接指導で発生する費用は事業者が負担する
ストレスチェック制度における面接指導の費用については、事業者が全額負担するように法律で義務付けられています。
これは厚生労働省のQ&Aでも明記されており、労働安全衛生法に基づく事業者の義務として位置付けられています。
ただし、面接指導の結果、通院や受診、治療が必要となった場合に、その費用を負担するのは労働者本人です。
産業医の面接指導の記録は5年間保管する
産業医の面接指導記録は、5年間の保存が義務付けられています。
労働安全衛生規則第52条の6および第52条の18に基づき、面接指導結果報告書を含む記録を事業者が5年間保管する必要があります。
この記録には、以下の内容が含まれます。
【保存が必要な主な記録】
・面接指導の実施内容(日時・労働者氏名・医師の所見など)
・事業者が講じた措置内容(作業転換・労働時間短縮など)
・オンライン面接実施時の要件遵守記録(プライバシー保護措置・通信機器の機能など)
面接指導の記録は、労働基準監督署の立入検査時に提示を求められる可能性もあるため、厳格な管理が求められます。
参考:労働安全衛生規則 第一編 第六章 健康の保持増進のための措置
産業医がいないときのストレスチェック後の相談先
産業医がいない場合のストレスチェック後の相談先は、以下のサービスで対応可能です。
- 地域産業保健センター
- 外部専門機関の利用
- 産業保健総合支援センター
- 厚生労働省「こころほっとライン」
地域産業保健センター
地域産業保健センターでは、労働者50人未満の小規模事業場を対象に、無料でメンタルヘルス相談を含む産業保健サービスを提供しています。
ただし、利用回数に制限があり、毎回同じ産業医が担当しない点に注意が必要です。
外部専門機関の利用
健康診断機関やメンタルヘルスサービス提供機関に、ストレスチェック実施と面接指導を委託可能です。
産業保健総合支援センター
産業保健総合支援センターでは、ストレスチェック実施者の確保や面接指導の進め方について助言を受けられます。
厚生労働省「こころほっとライン」
労働者個人向けには、メンタルヘルス相談窓口「こころほっとライン」が厚生労働省より提供されています。
こころほっとライン:0120-565-455
受付時間:平日17時〜22時・土日10時〜16時
まとめ:ストレスチェック後は産業医面談を円滑に進めよう
ストレスチェックにおける産業医の主な役割は面接指導です。
産業医面談は、高ストレス者と判定された従業員が自身のストレス状況を振り返り、産業医から適切なアドバイスを受ける場です。
本記事を参考に産業医面談を円滑に進め、面談で得られた情報を活用し、従業員の健康維持と職場環境改善につなげましょう。