開業医は高年収が見込める、独自の診療スタイルを確立できるといった魅力があります。
しかし、開業には失敗のリスクがつきものであり、不安が大きい挑戦でもあるでしょう。
この記事では、開業医の考えうるリスクを紹介し、失敗事例から成功のための秘訣をお伝えします。
医師の開業のリスクや失敗から、成功への施策と戦略を立てましょう。
この記事の内容
開業医にリスクはある?成功率と失敗する確率
開業医の成功率は、他の職種と比べて高い傾向にあります。
帝国データバンクの「医療機関の倒産動向調査(2021年)」によると、2021年の診療所の倒産件数はわずか22件。データからみても、開業医の失敗する確率はかなり低いといえます。
引用:帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2021 年) 」
さらに言えば、2021年の22件という数値は、新型コロナウイルスによる影響によるものと考えられており、前年比1.8倍に急増し注目された年です。
年間の診療所の倒産件数を平均すると、約14件程度に留まります。
しかし、上記のデータはあくまで倒産件数だけでの話であり、資金繰りが厳しい状況で続けている診療所も少なくありません。
さらに医師全体のリスクの話をするなら「2040年医者余り問題」も、他人事ではなくなります。
クリニックの経営安定化を図るためには、地域の医療ニーズやトレンドに応じて、柔軟に施策を打ち出す必要があるでしょう。
参考:帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2021 年) 」
厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」
開業医の5つのリスク
開業医が備えるべきリスクは、主に以下の5つに集約されます。
- 休診時のリスク
- 災害時のリスク
- 事業失敗のリスク
- 老後資金のリスク
- 医療事故・訴訟のリスク
開業医は勤務医とは異なり、経営者としてのリスク管理が重要です。どのようなリスクが予想されるのか、それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.休診時のリスク
院長一人で診療をこなすクリニックの場合、病気や怪我で働けなくなると休診しなければなりません。
勤務医の傷病手当金のような保証はないため、休診するほど収入は減少していきます。
また、就業できない状態であっても、毎月の返済や医療機器のリース代といった支出は変わらず発生するため、運転資金が枯渇するといったリスクも考えられるでしょう。
2.災害時のリスク
火災や水害といった災害は、いつ起こるか予測できません。また、自然災害が発生した際には、医師としてどのように立ち回るか自分自身で考える必要があります。
勤務医であれば災害時対応で給料が保証されますが、開業医の収入は保証されません。
火災保険などで備えるのはもちろん、資金繰りが厳しい状況になった際のリスク対策も必要です。
3.老後資金のリスク
開業医は病院や企業に属していないため、退職金がありません。そのため、老後資金を自分で用意しておく必要があります。
個人が加入する国民年金は、勤務医が加入する厚生年金より受け取れる年金額が少ないため、十分な備えとはいえないでしょう。
また「生涯現役」と思って開院しても、病に倒れて閉院せざるを得なくなる可能性もゼロではありません。
私的年金の加入や資産運用など、不安なく引退できる環境を早いうちから整えておきましょう。
4.医療事故・訴訟のリスク
勤務医であれば病院側が賠償責任保険に加入しているため、医師個人に対して賠償責任は発生しない場合がほとんどです。
しかし、万が一医療ミスや医療事故が発生した場合、賠償金を請求される可能性があります。
院長だけでなく、従業員である看護師がミスをしてしまうケースも考えられるでしょう。
開業医は自身が経営者であり責任者であるため、自分自身で立ち回らなければいけません。
訴訟のリスクを下げるためには、日頃の患者とのコミュニケーションが重要です。患者との信頼関係を築けていれば、訴訟に発展する可能性はかなり低いといえます。
5.事業失敗のリスク
医院を開業すれば、必ず事業失敗のリスクが伴います。
資金繰りがうまくいかず、経営悪化や閉院を考えなければならない状況に陥る可能性も想定できます。
また、開院時は好調であっても「駅近くに同診療科のクリニックができてしまった」「医療から介護ニーズへの移行」など、収入が激減するケースも実際にある事例です。
さらに従業員への退職金や借入金の返済など、閉院にもコストがかかります。
次に紹介する失敗事例も踏まえ、考えうるリスクを洗い出し、リスク対策を考えていきましょう。
開業医の失敗事例|潰れるリスクのあるクリニックの特徴は?
開業医によくある失敗事例を8つご紹介します。
- 不要な設備に投資してしまった
- 立地選びに失敗して患者が来ない
- スタッフの採用に失敗して悪評が立ってしまった
- マーケティング・ネット集患に力を入れていない
- 経営者としてのスキルが足りていない
- 不測の事態を予測できず運転資金が不足した
- 内装や設備が患者のニーズに合っていない
- 紙カルテの保管場所に困った
実際にあった失敗事例から、備えるべきリスクを可視化しましょう。
不要な設備に投資してしまった
「高度な医療を提供するために不要な設備まで購入してしまった」という、開院時によくある失敗です。
設備を充実させるほど借入金の負担も増えるため、必要性をよく考えてから購入しましょう。
初期費用を押さえることで、休診時のリスクにも備えられます。
また、高額なものや買い替えの必要がある医療機器は、リースと購入のどちらが得か比較検討してみると良いでしょう。
立地選びに失敗して患者が来ない
開院場所を間違えると「患者が来ない」「儲からない」といった失敗のリスクが高くなります。
せっかく独立したのに患者数が伸びず、運転資金を稼ぐために勤務医として働くといった事例も現実にあります。
周囲の医院の数や診療科の種類の把握、ターゲット層と地域特性があっているかなど、立地選びは慎重に進めるべきです。
例えば、地域の都市開発計画まで目を向けると、長期的な視点から検討できます。
スタッフの採用に失敗して悪評が立ってしまった
採用したスタッフの対応が悪く「受付スタッフの対応が悪い」「看護師の処置が下手」など、悪い評判が立ってしまう場合があります。
院長が丁寧に診療をおこなっていても、受付スタッフの対応が良くないと悪い印象を持たれてしまうのです。
クリニックは口コミや評判を基に選ぶ方も多いので、失敗しないためにも採用は慎重におこないましょう。
また採用とは別に、スタッフの定着率にも注意が必要です。スタッフがコロコロ変わるクリニックは「何か問題があるのでは?」と不信感を与えます。
時間がないからとスタッフと向き合うことを忘れると、後々後悔するかもしれません。
マーケティング・ネット集患に力を入れていない
ネット戦略を怠ったことで、思うように集患できていないというクリニックは非常に多く見られます。
「開院すれば自然と患者が集まると思った」と、マーケティングを深く考えていないと失敗のリスクが高まるのです。
とくに今の時代は、ネットで地域を検索してクリニックを探す患者が大半なので、ネット戦略のない医院は見つけてもらえない可能性もあります。
適切な対策をとらなければ、気付いたときには他院に患者が流れているかもしれません。
医院の開業で最低限対策すべきネット戦略は、主に以下のとおりです。
- ホームページの開設とこまめな更新
- Googleマップの登録と口コミの管理
- SNS(ソーシャルメディア)の活用
- オンライン予約システムの導入
経営者としてのスキルが足りていない
開業医はただ患者を診療するだけでなく、経営手腕も求められます。
経理や人事、集患戦略など、思うようにいかず「経営者としての知識が足りていなかった」と痛感させられる医師も多いようです。
経営者としての知識を身に付けるのはもちろん、事務長を置いたり、コンサルタントに相談したりなど、周りにもうまく頼りましょう。
不測の事態を予測できず運転資金が不足した
開院資金で手いっぱいで、不測の事態に備えていないクリニックは意外と多いです。
「軌道に乗らず思ったより厳しい」「ここまで患者が来ないとは思わなかった」と、開院してから後悔する医師も多く見られます。
運転資金はクリニックの規模や科によって異なりますが、最低でも3ヵ月分の資金の余力を残して開院できるのが理想です。
開業資金の融資は受けられますが、返済に困らないように、開業資金の10〜20%程度は自己資金で用意しましょう。
内装や設備が患者のニーズに合っていない
自分のこだわりが先行してしまい、患者のニーズに応えられていないという失敗事例があるようです。
小児科であれば子供向けのスペースの確保や、おむつの交換台などがあると便利です。他にも、高齢者の患者が多いならバリアフリーに力を入れるなど、診療科や訪問する患者に合わせて設備を揃えると良いでしょう。
院長だけでなく、スタッフの意見を取り入れたり、意見箱を設置して患者の声を集めてみたりなど、できる施策に取り組んでみてください。
紙カルテの保管場所に困った
カルテは扱いやすい、コストを安く抑えられるといったメリットがある一方で、保管場所に困るというデメリットがあります。
医師法により電子カルテの保存期間は最低5年と決まっているため、スペースの確保が難しくなっていくでしょう。
先輩医師の中には「早い段階で電子カルテに切り替えるべきだった」と感じている方もいるようです。
また、医療訴訟の時効が20年と考えると、いざというときのリスクに備えて5年以降も保管しておくべきといえます。
なお、政府は電子カルテを推奨しており、2030年にはクラウドベースの電子カルテを、おおむねすべての医療機関の導入を目指しています。
電子カルテシステムを未導入の医療機関を含め、電子カルテ情報の共有のために必要な支援策を検討しつつ、遅くとも 2030 年 1には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す。
引用:内閣官房長 医療DX推進本部「第3回医療DX推進本部幹事会」
数年後には電子カルテの導入が義務付けられている可能性が高くなっています。
これから開院を目指す医師は、途中で切り替えるより、始めから電子カルテとクラウドによるデータ管理を導入して慣れておくのが賢明でしょう。
開業医のリスクと失敗から学ぶ「リスクマネジメント」
開業医のリスクと失敗から学ぶ「リスクマネジメント」を、3つ解説します。
- 家族やスタッフと共に体制を整える
- 万が一に備える保険への加入
- 経営コンサルタントの活用
失敗事例から学ぶ成功のための秘訣をお伝えします。
家族やスタッフと共に体制を整える
開業医として成功するためには、家族やスタッフとの強固な協力体制が欠かせません。家族は精神的な支えとなり、スタッフは日々の業務を支える重要な存在です。
開業前から家族とビジョンを共有し、役割を明確にすることで、スムーズな運営が可能になります。また、スタッフと信頼関係を築くことも重要です。
コミュニケーションを通じて良好な職場環境を整えることが、患者へのサービス向上につながります。
万が一に備える保険への加入
開業医にとって保険への加入は必須です。医療訴訟や自然災害、火災など、予測不可能なリスクに備えられます。
医師賠償責任保険に加入することで、診療中のミスや事故に対して補償を受けられ、安心して業務を続けられるでしょう。また、施設や設備の損害に備える火災保険や自然災害保険も重要です。
開業医が加入を検討したい保険は以下のとおりです。
- 生命保険
- 所得補償保険
- 医師賠償責任保険
- 施設賠償責任保険
総合的な保険プランを組み立てることで、安心して経営に集中できる環境を整えられます。
開業コンサルタントの活用
開業コンサルタントは、クリニックの立ち上げから運営に至るまで、幅広い分野でサポートを提供してくれます。
立地選定や市場調査、資金計画などの戦略を立てる際に、コンサルタントの知識と経験が役立つでしょう。また、開業後の運営面でも、経営効率の向上やマーケティング戦略の構築など、多岐にわたるアドバイスを受けられます。
院長の負担を減らし業務に集中するために、始めから社会保険労務士と顧問契約を結ぶのもおすすめです。
開業医のリスクと失敗|まとめ
開業医が考えるリスクと失敗について解説しました。
開業に成功するためには、立地選びやマーケティング戦略が欠かせません。とくにインターネットが普及した昨今、多くの患者はネット検索を活用して病院を選んでいます。
「開業すれば自然に集患できる」という時代は昔のこと。クリニック開業に向けて、効果的な戦略を打ち立てましょう。
また、院長が働けなくなったときや医療トラブルなど、万が一に備えた保険加入や頼れる人材の確保が重要となるでしょう。