病院に勤務する勤務医に比べ年収が高い傾向にある開業医への転向を考える歯科医師は多いのではないでしょうか。
開業歯科医師の中には1億円の年収を得ている方もいますが、開業すれば必ずしも高い年収を得られるわけではありません。経営のやり方次第で、赤字経営になることもあるでしょう。
本記事では開業歯科医師の平均年収を説明します。開業医が年収を高めるために必要なことや開業医のデメリットも解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の内容
開業歯科医師の平均年収
歯科医師の平均年収を年齢、性別、地域別で比較しました。
勤務する歯科医院の規模やおこなう治療内容により年収に差はありますが、参考にしてみてください。
年齢別の年収比較
厚生労働省が発表した「令和5年賃金構造基本統計調査」をもとに年齢別の年収を比較しました。
年齢 | 年収の目安 |
---|---|
25〜29歳 | 414万1,600円 |
30〜34歳 | 551万3,300円 |
40〜44歳 | 1,226万7,000円 |
50〜54歳 | 1,214万1,500円 |
60代以上 | 1,354万8,500円 |
年齢別で見ると60代が最も年収が高く、6年間大学に通いながら研修医として勤務する20代は年収が低い傾向にあります。また、歯科医師には定年制度がないため60代以上も高い年収を得ている方が多いでしょう。
男性女性別の年収比較
男性女性別の年収比較は次のとおりです。
男性 | 女性 |
---|---|
849万 | 886万 |
女性歯科医師の方が平均年収が高いのは、男性歯科医師に比べ女性歯科医師の数が少なく、女性の患者が来院しやすい場合があるためと考えられます。
しかし、勤務する歯科医院によって産休が取りにくい、子どもの都合で休暇が取りにくいといったケースもあり、男性歯科医師よりも長期で働く女性歯科医師は少ない傾向にあります。
地域別の年収比較
地域別の年収比較は次の表のとおりです。
地域 | 年収の目安 |
---|---|
東京 | 626万円 |
愛知 | 1,258万円 |
大阪 | 830万円 |
北海道 | 565万円 |
福岡 | 653万円 |
主要都市がある5つの地域で比較すると、愛知県が最も年収が高い傾向にありました。
また人口が多い都心部の東京では平均値程度となり、人口数による年収差は少ないと考えられます。
【注意】開業するだけでは歯科医師の年収は高くならない
開業するだけでは年収を高めることは難しく、年収の差は次のことが影響すると考えられます。
- 歯科医師やスタッフの技術力
- 開業する地域
- 歯科医院の規模
それぞれ解説するので、内容を確認してみてください。
歯科医師やスタッフの技術力
開業医の場合、自身のスキルが年収に影響を及ぼします。歯科医師としての治療技術はもちろん、患者が相談しやすいコミュニケーション能力やスタッフと良好な人間関係を構築する協調性も必要です。
複数の歯科医師を雇う場合も、医院全体で技術力を高めるセミナーや研修会が必要でしょう。
開業する地域
都心部に近い地域ほど人口が多いため、集患数も増えやすく、収益アップの可能性が高くなります。また、最低賃金の設定も高いため、勤務医であっても年収が高い傾向にあります。
開業医の場合も都心部のほうが集患しやすい傾向にありますが、競合が多い場合や家賃、スタッフの人件費の負担があることを踏まえて地域を選びましょう。
歯科医院の規模
一般的な企業の場合、規模が大きいと収益が高まるため、年収も増加する傾向にあります。
規模が大きければ、その分対応可能な患者のキャパも広げられるため、売上を拡大していけるでしょう。
開業医が年収を高めるために必要なこと
開業医が年収を高めるためには、次の項目に着目する必要があります。
- 自費診療を増やす
- 競合の歯科医院と差別化する
- 集患しやすい場所で開業する
- 自院をブランディングする
- 医療法人化する
それぞれ解説するので、参考にしてみてください。
自費診療を増やす
自費診療、いわゆる自由診療は、患者の希望に合わせた保険適応外でおこなう診療内容です。
自費診療を扱えれば治療の幅が広がり、患者のニーズに応えられるので集患につながります。高額な機器を利用するので患者1人あたりの診察料が増し、歯科医院の収益も増加します。
公的な医療保険の対象にならない自費診療は、ホワイトニングや歯列矯正、インプラント治療などが代表的です。
また、保険適応の虫歯治療であっても耐久性や変色などを考慮し、自費になる素材を使用するケースもあります。
自費診療を増やすには高度な技術が求められるため、歯科医師として専門性を高めることも必要です。
競合の歯科医院と差別化する
数ある歯科医院の中から患者に選んでもらうためには、競合歯科医院との明確な違いが必要です。得意とする診察内容の専門性が高い歯科医院は選択されやすい特徴があります。
競合歯科医院ではかなわないような、高度な治療ができる歯科医師を教育したり、診療機器を導入したりしましょう。小児歯科やインプラント治療、訪問歯科診療など、ターゲット層を絞った経営であれば、より競合との差別化が図れます。
ほかにも営業時間や医院スタッフの雰囲気など、患者が自院を選択する理由を強化できるとよいでしょう。
集患しやすい場所で開業する
患者は歯科医院を選択する際、通いやすさを重視する場合も多いでしょう。
たとえば、仕事終わりのサラリーマンをターゲットにする場合、オフィス街や駅前の商業ビル内で遅くまで営業していると通院しやすいでしょう。
また、主婦や高齢者が多い住宅街では、午前中から昼間に診察を受ける患者が増える傾向にあります。
他にも、駐車場が完備されていることや、日常的に使うスーパーマーケット、ドラッグストアなどの近くに立地している歯科医院であれば利用しやすいでしょう。
自院をブランディングする
ブランディングとは、歯科医院のイメージを患者に持たせ、信頼を得るというマーケティング戦略です。良いイメージを持つ患者が増えることで自院の価値を高め、競合との差別化にもつながります。
ホームページに歯科医師や院内の雰囲気がわかる写真を掲載したり、SNSで動画や画像を発信したりすることで、歯科医院のイメージを患者にアピールします。
インターネット上で患者の目に留まりやすいようにするために、施術した患者の体験談の口コミを増やすMEO対策も必要です。
競合の戦略や患者のニーズを分析し、満足度が向上すればリピート率が高まり、歯科医院の収益が増加するでしょう。
医療法人化する
医療法人化とは、医療法で定められた手続きに従い、都道府県知事の許可を得て法人化することです。
所得税ではなく法人税の支払いになるため節税につながり、医療法人から給与が支払われる形になるため、給与所得控除が受けられます。
税金の面に加えて、分院の設立やその他の事業の展開もできるため、歯科医院の規模を大きくできることもメリットです。
都道府県知事の許可を得ることで、個人事業に比べて社会的信用性も向上するため、業務展開の際の融資が受けやすくなるでしょう。
また優秀なスタッフの確保がしやすくなるため、医院全体の技術向上にもつながります。
開業医になるデメリットはある?
開業医になるにはデメリットも把握しましょう。
- 開業資金がかかる
- 競合歯科医院が多い
デメリットを理解し、対処できる方法を検討するとよいでしょう。
開業資金がかかる
歯科医院の開業には、少なくとも5,000万円程度必要です。
開業当初は、設備投資に多くの費用がかかります。診察台やレントゲン、除菌機など診察で利用する医療機器は2,000~3,000万円になるでしょう。診察台を増やせば、多くの患者を一度に診察できますが、投資費用も増大します。
また多くの患者を集めるには、患者が利用しやすい駅前や広い駐車場が確保できることが条件になるため、医院の家賃や内装工事費用も高額になるでしょう。
開業初期は固定の患者が少なく、経営が安定するまでに時間を要する場合もあります。その間もスタッフの給与や治療で使う消耗品を購入する費用が必須ですので、当面の運転資金の確保もしておきましょう。
競合歯科医院が多い
令和5年3月時点で歯科医院の数は67,431施設あり、令和4年12月時点で歯科医師の数は105,267人です。
最も歯科医院が多い2016年をピークに減少傾向にありますが、「歯科医院はコンビニエンスストアよりも多い」といわれるほど、歯科医院の数は多くあります。
競合歯科医院が多いため患者の取り合いが発生し、安定した集患につながらないデメリットが考えられます。
また、近年ではSNSで歯科医院を探す若年層が増え、インターネットを上手く活用していない歯科医院では新規顧客の獲得が難しくなるケースもあります。
引用
医療施設動態調査(令和5年3月末概数)
令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
まとめ:歯科医師として年収を高めたいなら開業医になる選択もおすすめ
歯科医院の開業医になることで、上手くいけば1億円以上の年収を得ることも可能です。しかし、年収を高めるには専門的な高度な治療技術のほか、集患につながるマーケティング戦略や経営戦略も必要です。
歯科医師として高い年収を得るためには、経営計画を立ててから開業医になるとよいでしょう。