病院は働く職員や患者にとって、快適かつ安全に治療を行えることが大切です。
新規開業に伴い、どのように設計したらいいかわからないことも多いでしょう。
そこで本記事では、病院設計を行う6つのコツや診療科ごとのポイント、注意点について解説します。設計事務所の選び方も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
病院設計でおさえておくべきポイント
それでは、病院設計でおさえておくべきポイントを6つ紹介します。
- 雑菌を院内に持ち込まない設計を意識する
- 病院のコンセプトを設計に取り入れる
- 快適な空間作りを意識してゾーニングする
- 移動しやすい導線を考慮する
- 死角を作らない設計にする
- 待合室や診療中のプライバシー保護を重視する
雑菌を院内に持ち込まない設計を意識する
病院設計では、雑菌を院内に持ち込まないよう意識してください。
病院は子どもから高齢者まで、日々多くの患者が来院します。特に子どもや高齢者は免疫力が低い傾向にあるため、感染対策が欠かせません。
玄関でスリッパに履き替える、ベビーカーはどこまでOKにするかなど検討が必要です
スリッパに履き替えない場合やベビーカーの乗り入れOKにするなら、消毒を徹底するためのレイアウトも考える必要があります。
病院のコンセプトを設計に取り入れる
病院設計では、コンセプトを設計に取り入れることが大切です。
病院を開業するにあたって、どのような診療方針で医療を提供したいのか、コンセプトを明確化しておけば経営成功につながりやすくなります。
コンセプトは診療方針以外にも、内装やデザインでも決めておくといいでしょう。
快適な空間作りを意識してゾーニングする
快適な空間作りを意識してゾーニングすることも重要です。
ゾーニングとは、「区分する」という不動産用語ですが、病院設計では部門別の配置を意味します。
総合病院のように大規模の病院では、複数の科を受診する場合場所が分かりづらかったり、移動に苦労したりするでしょう。
小規模の病院でも、診察室から検査室に移動する場合、移動しやすさや利用しやすいかを意識する必要があります。
患者にとってもスタッフにとっても、快適な空間であることを意識してください。
移動しやすい導線を考慮する
そして、移動しやすい導線を考慮しましょう。
「患者が移動しやすいか」「必要な医療機器や衛生設備を設置できるか」「スタッフがストレスなく業務をこなせるか」など、さまざまな視点からの考慮が必要です。
ストレッチャーで患者を運ぶときや車椅子の患者が移動する際は、バリアフリー導線にも配慮しなければなりません。
廊下が狭いと車椅子同士がすれ違えないこともあえるでしょう。あらゆるシーンを想定して移動しやすい導線を意識してください。
死角を作らない設計にする
死角を作らないことも重要です。
病院内に死角があると、思わぬトラブルや医療事故につながる恐れがあります。
外来では受付から待合室を見渡せるか、病棟ではナースステーションからの死角を最小化できるかなど、病院に応じて死角を作らないよう意識しましょう。
待合室や診療中のプライバシー保護を重視する
待合室や診療中のプライバシー保護を重視してください。
診療科によっては、待合室で他の患者と視線が合うと気まずい思いをすることもあるでしょう。
診察室の声が廊下や待合室に声が筒抜けでは、患者のプライバシーが保たれません。
患者の個人情報保護の観点でも、診察室の広さや防音設備の導入なども考慮する必要があります。
病院設計を行う3つの注意点
続いて、病院設計を行う3つの注意点を紹介します。
- 無床と有床では建築基準法が異なる
- 遵守すべき法令やガイドラインを把握しておく
- 病院設計における構造設備等の基準を確認する
無床と有床では建築基準法が異なる
無床と有床では建築基準法が異なるのが留意点です。
病棟がある病院の場合、病床数に応じて扱いが異なります。
- 20床以上:病院
- 19床以下:診療所
- 無床:一般建築物
病棟がある場合は、病院でも診療所でも「特殊建築物」となり、それぞれ建築基準法が異なるため設計の自由度にも影響します。
参照:東京都都市整備局|用途地域による建築物の用途制限の概要
遵守すべき法令やガイドラインを把握しておく
病院設計では、遵守すべき法令やガイドラインの把握も重要です。
ガイドラインでは、日本医療福祉設備協会による病院の設備設計の、空調設備・衛生設備・電気設備が該当します。
その他にも、バリアフリー法や地方公共団体条例、まちづくり条例なども把握しておきましょう。
なお、ガイドラインやバリアフリー法は、どの地域でも共通していますが、地方公共団体条例、まちづくり条例は地域ごとに違いがあるため確認が必要です。
参照:病院設備設計ガイドライン(空調設備)
参照:病院設備設計ガイドライン(衛生設備)
参照:病院設備設計ガイドライン(電気設備)
参照:バリアフリー法
病院設計における構造設備等の基準を確認する
病院設計では、構造設備等の基準の確認も欠かせません。
必置設備や病床面積・廊下幅は、病院と診療所で異なります。
さらに、病院は「一般病床・療養病床・精神病床・感染症病床/結核病床」に分かれており、診療所も「療養病床・一般病床」でそれぞれ条件が違います。
診療科による病院設計の違い
病院設計は診療科によってポイントが異なります。本章では診療科ごとのポイントについて解説します。
- 呼吸器内科
- 循環器内科
- 神経内科・脳神経外科
- 心療内科
- 産婦人科
- 皮膚科
- 耳鼻咽喉科
- 小児科
- 泌尿器科
- 整形外科
- 眼科
呼吸器内科
呼吸器内科では、感染症に配慮した設計が求められます。
空気感染対策には、換気や隔離などの対策が必要です。
咳が止まらない場合は、他の患者への感染を防ぐために、通常とは別に隔離待合室や処置室が必要になる場合があります。
感染対策では、スタッフの休憩室を診療室から離れた場所に設置するのも有効です。
循環器内科
循環器内科では、診察前の検査が多い傾向があります。
待合室から検査室、検査室から診察室など、移動導線に配慮しなければなりません。
重篤な疾患を持つ患者や高齢の患者は、車椅子での移動も考えられるため、バリアフリーや廊下幅を十分に確保できるかも重要です。
神経内科・脳神経外科
神経内科や脳神経外科では、レントゲンやCT・MRIなど大型医療機器の設置を前提とした設計が求められます。
また、リハビリ施設を併設する場合は、リハビリ機器を設置できるか、十分なスペースを確保できるかも重要です。
心療内科
心療内科では、患者のプライバシー保護を重視しましょう。
待合室が外から見えないよう配慮されているか、入り口から入った患者と待合室で待っている患者の視線が合わないレイアウトかなども考慮してください。
中には診察中に暴れる患者もいるでしょう。不測の事態に備えて、スタッフの安全を確保できるか、監視カメラなど安全対策を取り入れることも検討しましょう。
産婦人科
産婦人科は、有床と無床で設計が変わってきます。
出産を伴う有床施設の場合、診察と入院エリアを区別する必要があります。また入院エリアは入院と分娩の区別も必要です。
別途回復室を設けるか、食事を病室か食堂にするかでも設計が変わるので、コンセプトの把握が重要になるでしょう。
皮膚科
皮膚科は保険診療と自費診療で設計が変わる傾向があります。
保険診療の場合は患者数が多いことが予想されるため、待合室のスペースやレイアウトに配慮が必要です。
自費診療で完全予約制にするなら、カウンセリングルームやパウダールームなどが必要になるでしょう。
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科は他の診療科目に比べて数が少ない傾向があるため、患者数が多くなることが予想されます。
予約制を導入していても、急患が来る可能性はあるでしょう。待合室には十分なスペースを確保できるか確認してください。
子どもが多い場合は、待合室にテレビや絵本を置く本棚、キッズスペースの設置を検討しましょう。子どもが飽きずに過ごせる環境は、子ども連れの患者も利用しやすいのがメリットです。
小児科
小児科では、子ども目線での設計が必要です。
ベビーカーで来院する場合は、段差があったり入り口が狭かったりすると不便に感じるでしょう。
兄弟姉妹がいる場合のキッズスペースの有無や、子ども用トイレや多目的トイレなどもあると便利です。
泌尿器内科
泌尿器科では、診察とは別に検査や処置を行うスペースが必要です。
診察室以外にも検査室や処置室など、頻繁に移動するため移動導線にも配慮しましょう。
また性別を問わず、プライバシーへの配慮も欠かせません。
整形外科
整形外科は、患者導線を優先することが大切です。
「待合室から診察室への移動がしやすいか」「松葉杖や車椅子で来院する患者を誘導しやすいか」なども考慮しましょう。
眼科
眼科は、視覚的バリアフリーを意識した設計が求められます。
目に問題を抱える患者が安心して診察を受けられるか、照明の明るさや位置などにも配慮が必要です。
後から検査機器を導入する場合を想定して、スペースを確保できるかも設計に取り入れるといいでしょう。
病院の開業に伴う設計事務所の選び方
建築会社やハウスメーカーなど設計事務所は多々あります。
そこで最後に、病院の開業に伴う設計事務所の選び方を3つ紹介します。
- 過去の設計実績が条件に見合うか
- 担当者がビジネスパートナーとしてふさわしいか
- 患者の立場になって考えられるか
過去の設計実績が条件に見合うか
過去の設計実績が条件に見合うかを確認しましょう。
実績が豊富でも、病院の設計実績が乏しければ理想とする病院の実現はかなわないでしょう。
設計事務所を選ぶ際は、病院の設計実績が豊富かも確認してください。
図面は基本設計の他にも実施設計など複数回にわたって修正を行います。ヒアリングで丁寧に説明してくれるかも確認しておきたいポイントです。
担当者がビジネスパートナーとしてふさわしいか
担当者がビジネスパートナーとしてふさわしいかも重要です。
病院の設計段階から竣工までは時間がかかるため、担当者とは長期間付き合うことになります。
信頼できる設計事務所を選んでも、担当者と良好な関係を築けなければ意思の疎通はかないません。
担当者の人柄も確認して、ビジネスパートナーにふさわしいかを確認しましょう。
患者の立場になって考えられるか
患者の立場になって考え設計してもらえるかも確認しておきたいポイントです。
どんなにこだわって設計しても、患者にとって不便で利用しづらいと感じれば来院してもらえないでしょう。
子どもから高齢者まで、あらゆる年齢層の患者の立場に立って考えられるかを意識してください。
まとめ:病院設計は信頼できる設計事務所に依頼しよう
病院設計では、設計の際病院側のコンセプトをしっかりと伝え、共有してもらえるかが重要です。
診療科によっても設計のポイントは異なるので、コンセプトは明確に伝えてください。
病院設計の依頼先には選択肢がありますが、信頼できる設計事務所を見極めることも大切です。
安心してお任せできる設計事務所に依頼しましょう。