開業医になる際、個人事業主になるか医療法人にするかを選択しなければなりません。
当然ながら、どちらか一方のほうが優れているということはないので、双方のメリット・デメリットを踏まえ、自身の状況と照らし合わせながら判断する必要があります。
そこで、この記事では個人事業主と医療法人の違い、税金の種類、メリット・デメリットを解説します。
後半では個人事業主か医療法人かを迷った際に、何を判断基準にすれば良いのかも解説しているので、ぜひ最後までお読みください。
この記事の内容
個人事業主と医療法人の事業性
個人事業主と医療法人の1番大きな違いは、個人事業主は営利目的での活動が可能であるのに対し、医療法人は非営利組織であることです。
個人事業主は、営利目的での活動が可能であり、得た利益は全て自己資金として使うことが可能です。
したがって、マイホームの購入を検討していたり子どもが私学受験を控えていたりする場合は、貯金しておけます。
一方、医療法人では都道府県から認可を得ることになっているため、営利活動ではなく公共活動的な側面が強くなります。
個人事業主に比べ信用性が高く資金調達も容易なため、最新設備を導入するなどして経営の安定を図れるでしょう。
個人事業主と医療法人にかかる税金
個人事業主と医療法人では支払う税金にも違いがあります。
個人事業主にかかる税金
個人事業主では、主に以下の3つの税金を支払います。
- 所得税
- 住民税
- 事業税
所得税は累進課税が適用され、5%〜45%までの7段階があります。
住民税は一律10%、事業税は非課税である290万円を超えた分に対して、5%の税金がかかります。
医療法人にかかる税金
一方、医療法人では、主に以下の3つの税金を支払います。
- 法人税
- 地方法人税および住民税
- 事業税
法人税は、以下のように普通法人と同じ程度の税金がかかります。
区分 | 税率 |
---|---|
資本金1億円以下の医療法人 | 所得金額が年800万円以下の部分:15% 所得金額が年800万円超の部分:23.2% |
資本金1億円超の医療法人 | 23.2% |
地方法人税および住民税は法人税の17.3%または20.7%がかかります。
また、事業税は所得の3.4%~5.23%となっています。
なお、個人事業主でも法人税でも、消費税は自費診療のみに適用される点も押さえておきましょう。
個人事業主になるメリット・デメリット
ここでは、個人事業主になるメリットとデメリットをそれぞれ見ていきましょう。
個人事業主になるメリット
個人事業主になるメリットは、主に以下の2つが挙げられます。
- 財産を自由に使える
- 小規模企業共済や経営セーフティ共済への加入が可能
1つずつ見ていきましょう。
財産を自由に使える
1つ目は財産を自由に使えることです。
医療法人では法人用の資金と自己資金が完全にわかれていますが、個人事業主では医療機関で得た財産は全て自分の意志で自由に使えます。
マイホームの購入を検討していたり子どもが私学受験を控えていたりする場合、医療法人だと「給料」の中から貯金しなければなりませんが、個人事業主であれば医療機関の利益での貯金も可能です。
もちろん、自己責任で管理が必要ですが、自由に使えるメリットはとても大きいでしょう。
小規模企業共済や経営セーフティ共済への加入が可能
2つ目は小規模企業共済や経営セーフティ共済への加入ができることです。
小規模企業共済に加入すると老後の生活資金を貯めることができ、経営セーフティ共済に加入するとトラブルが起きた際に速やかに資金を借り入れることができます。
また、これらの掛金は経費に計上できるため、節税対策にもなるでしょう。
個人事業主になるデメリット
個人事業主になるデメリットは、主に以下の2つが挙げられます。
- 大きな節税が困難
- 法人と比べた場合の社会的信用度の低さ
1つずつ見ていきましょう。
大きな節税が困難
1つ目は大きな節税が困難なことです。
先ほど、小規模企業共済や経営セーフティ共済に加入することで節税ができるとお伝えしましたが、その額はあまり大きくありません。
他に節税する手段はほとんどないため、大きな節税対策は困難だといえるでしょう。
法人と比べた場合の社会的信用度の低さ
2つ目は法人と比べた場合に社会的信用度が低いことです。
そのため、「個人事業主」ということだけで、ローンや借入の審査が通りにくくなる点にも注意が必要です。
他にも、物件を借りる際、連帯保証人を個人事業主以外の者に設定する必要がある点も理解しておきましょう。
医療法人化するメリット・デメリット
ここでは、医療法人化するメリットとデメリットをそれぞれ見ていきましょう。
医療法人化するメリット
医療法人化するメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
- 分院展開がスムーズ
- 事業承継が成功する可能性が向上
- 社会的信用度の向上
1つずつ見ていきましょう。
分院展開がスムーズ
1つ目は分院展開がスムーズなことです。
個人事業主では「診療所」の責任者として開業するため、新たに診療所を開設するのは手間がかかります。
一方、医療法人では「法人」の代表であるため、管理者を複数立てれば分院展開がスムーズにできます。
事業承継が成功する可能性が向上
2つ目は事業承継が成功する可能性が向上することです。
個人事業主で事業承継をする際は経営権・資産などにそれぞれ手続きが必要であることから、負担が大きくなりがちです。
一方、医療法人では経営権・資産の引き継ぎをするだけで事業承継ができるため、事業承継がしやすくなります。
社会的信用度の向上
3つ目は社会的信用度の向上です。
社会的信用度が向上すればローンや借入の審査が通りやすくなるでしょう。
医療法人化するデメリット
医療法人化するデメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
- 事務手続きの増加
- 運営が大変
- 出資金に対する配当が禁止
1つずつ見ていきましょう。
事務手続きの増加
1つ目は事務手続きの増加です。
事業報告書の作成や資産総額の登記などのやるべき事務手続きが増加します。
もし手が回らなければ、従業員を雇うか外注するなどの対応が必要です。
運営が大変
2つ目は運営が大変なことです。
医療法人の運営では理事会や社員総会なども開催する必要があります。
1つ目の事務手続きと併せて、やることがかなり多いため、個人事業主よりも負担が大きくなるでしょう。
出資金に対する配当が禁止
3つ目は出資金に対する配当が禁止されていることです。
医療法人では利益を追求するわけではなく、公共性が重視されていることが主な理由です。
なお、役員報酬として受け取る分には問題がないため、柔軟に対応しましょう。
個人事業主か医療法人かを迷った際のポイント
メリット・デメリットを見ても、個人事業主か医療法人かを迷われる方も少なくないでしょう。
そこで、どちらか迷った際に決断の助けとなる判断基準を4つ紹介します。
- 節税効果
- 私生活での出費
- 資産形成
- 後継者の有無
1つ目の「節税効果が大きい」のは、主に税率50%以上、すなわち課税所得1,800万円以上で利益率30%以上の場合です。
この場合には、医療法人化することで節税効果が期待できるでしょう。
また、マイホームの購入や子どもの学費の支払いなど大きな出費が予定されている場合は、十分な貯蓄をおこなったうえで医療法人化にすることを検討してみてください。
さらに、若い方であれば資産形成ができるかどうかに目を向けると良いでしょう。個人事業主のままでは所得分散が難しいと判断される場合には、医療法人化したほうが資産を形成しやすくなります。
後継者への事業承継を検討している場合は、医療法人化しておいたほうがスムーズに手続きにできるでしょう。
まとめ
個人事業主にも医療法人にも、それぞれメリット・デメリットがあります。
自由に運営したい場合は個人事業主のほうが向いていますが、安定した医院経営がしたい場合は医療法人が向いているでしょう。
どちらが正解ということはありませんので、今回ご紹介した内容を参考にしながら、決めてみてください。
また関連記事では医療法人の失敗事例なども解説しておりますので合わせてお読みいただければ幸いです。
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