訪問診療の立ち上げを考えているが、何から始めればいいか分からないという方はいらっしゃいませんか?
本記事では、開業資金の調達方法や開業するメリットなどについて解説していきます。
訪問診療の立ち上げを検討している方はぜひ参考にしてみてください!
この記事の内容
訪問診療の現状
現在の日本は高齢化が進行しており、65歳以上の人口は全体の約30%を占めています。この高齢化はこの先も進行し、さらに高齢者の人口は増えていくと言われています。
それに伴い、病院やクリニックに通うのが困難な高齢者も増えているのが現状です。そんな方々の治療をするためにも、直接医師が自宅や施設に伺う訪問診療の重要性が今後さらに高まっていくでしょう。
訪問診療の立ち上げパターン
訪問診療を立ち上げる際の開業パターンには、以下の2パターンあります。
- 外来と訪問診療の両方を立ち上げるパターン
- 訪問診療のみ立ち上げるパターン
これらについて詳しく解説していきます。
外来と訪問診療の両方を立ち上げるパターン
普段外来で患者を受け付けている病院やクリニックでも、訪問診療を立ち上げることができます。その際外来と訪問診療の部門の分け方にも、以下のようないくつかのパターンがあります。
パターン | 例 |
---|---|
1.曜日ごとで訪問診療と外来の日を分ける | 火曜、木曜は訪問診療を行う |
2.訪問診療と外来を時間で分ける | 午前は外来、午後は訪問診療 |
3,それぞれの部門で人員を分ける | 外来と訪問診療をそれぞれ別の担当医師を決める |
訪問診療のみ立ち上げるパターン
訪問診療のみでクリニックを立ち上げることも可能です。
訪問診療を専門的に行っていく場合は、「在宅療養支援診療所」の施設基準を取ることも考えておく必要があります。施設基準を取るためには、いくつかの要件を満たさなければなりません。
それについては、【「在宅療養支援診療所」の施設基準を取るメリットは?】の部分で解説していきます。
訪問診療の立ち上げに必要な開業資金はいくらくらい?
訪問診療のみのクリニックは、外来を受け付けているクリニックとは違い、診療室や医療機器などを揃える必要がありません。そのため訪問診療のみのクリニックは比較的費用を抑えて、開業することができます。必要な開業資金の内訳のイメージは以下の通りです。
約10坪の賃貸物件の敷金 | 約50万円 |
---|---|
内装・必要な医療機器・その他の備品 | 約150万円 |
往診用に使う車 | 約200万円 |
医師会入会金 | 約300万円 |
運転資金 | 約1,000円 |
合計 | 約1,700万円 |
自己資金はいくら必要?
自己資金だけで、開業資金全額を用意する必要はありません。銀行などの金融機関からお金を借りることで自己資金をできるだけ抑えて開業することができます。
ただクリニックを開業した後からは、借りたお金の返済や利息の支払いをしなければなりません。そのためある程度の自己資金を準備しておき、当面の運転資金として手元に残しておくことが重要です。
これらのことを踏まえると開業資金のうち、10〜20%ほどは自己資金で用意するといいでしょう。例えば、開業資金が1,700万円の場合は170~340万円程となります。
資金調達の方法
資金調達の方法には、主に以下の2パターンあります。
- 自己資金を増やす
- 金融機関から融資をしてもらう
自己資金を増やしていく際、自分で稼ぐ方法もありますが家族や親しい人たちから支援を受ける場合もあるでしょう。その場合、1年間(1月1日〜12月31日まで)で支援を受けた金額が110万円を超えると贈与税が課せられてしまうので、気をつけましょう。
またもうひとつの方法として金融機関から融資してもらうパターンがあります。金融機関によって、融資を受けるための条件や借りられる金額の上限が違うので事前の確認が重要です。
その他にも、政府や地方自治体から金銭的援助を受けられる場合もあるので、十分に調べて活用することも方法の一つでしょう。
訪問診療の立ち上げに成功した場合の収支と年収のイメージ
訪問診療の立ち上げに成功した場合の収支や年収のイメージについて解説していきます。以下の表は、厚生労働省から発表された個人経営の在宅療養支援診療所の年間収支を表しています。
収益 | |
---|---|
医業収益 | 約9,490万円 |
介護収益 | 1万円 |
支出 | |
人件費 | 約2,920万円 |
医薬品費 | 約1,150万円 |
その他の支出 | 約2,491万円 |
年間収支(収益から支出を差し引いた額) | 約2,930万円 |
一般的な個人診療所と訪問診療クリニックどちらが儲かる?
上記のように訪問診療クリニックの年間収支は約2,930万円となっています。それに対し、一般的な個人の診療所は年間収支は平均で約2,500万円と言われており、訪問診療クリニックの方が平均的な収入は多くなっています。
ただ訪問診療クリニックは、常に緊急時に備えて年中無休の24時間体制を組まなければなりません。その体制を維持するためには、複数人の常勤医師が連携する必要があります。一人ひとりの負担を分散し働きやすい労働環境作りが重要でしょう。
訪問診療の診療報酬単価はどのくらい?
訪問診療における診療報酬単価は以下の2つの要素で決まります。
- 往診料や訪問診療料
- 在宅時医学総合管理料や在宅療養指導管理料など
訪問診療の診療報酬単価は、通常の外来の患者を診療した場合の単価よりも高くなっています。月に2度訪問診療を行った場合、患者1人に対する診療1回の収入は平均で2〜3万円程度となっています。
訪問診療クリニックを開業するにあたり、報酬について知ることは必要不可欠です。ここでは2つの要素について、それぞれ解説していきます。
往診料や訪問診療料
往診や訪問診療による診療報酬はそれぞれの点数によって変わってきます。通常の往診をした際の診療報酬は720点となっていますが、訪問診療の場合は訪問先によって点数にパターンがあります。以下はそれらの診療報酬の点数についてまとめたものです。
往診料 | 720点
(定期的あるいは計画的に患家または他の保健医療機関に赴いて診療を行った場合は算定されない) |
|
---|---|---|
在宅患者訪問診療料(Ⅰ)
(1日につき) |
①訪問先の建物に住む患者を1人診療する場合 | 888点 |
②訪問先の建物に住んでいる複数の患者に診療する場合 | 213点 | |
在宅患者訪問診療(Ⅱ)
(1人の患者に対して複数の医療機関が訪問診療をした場合、Ⅱの基準で算定される) |
①訪問先の建物に住む患者を1人診療する場合 | 884点 |
②訪問先の建物に住んでいる複数の患者に診療する場合 | 187点 |
このように訪問先の状況や患者の人数、関わっている医療機関の数などの基準から診療報酬は決まります。
在宅時医学総合管理料や在宅療養指導管理料など
在宅時医学総合管理料
在宅時医学総合管理料とは、病院やクリニックに自ら通うことができない患者に計画的かつ定期的な訪問診療をしている場合、算定される診療報酬です。ただ患者が老人ホームやサービス付高齢者住宅といった施設に住んでいる場合には、施設入居時医学総合管理料として算定されます。これらの診療報酬は月に1度だけ算定が可能で、患者の状態や施設の設備などさまざまな条件で点数が変わります。
在宅療養指導管理料
もうひとつの在宅療養指導管理料は、在宅で療養している患者に対して人工呼吸や注射などを含む医療行為を継続的に行わなければならない場合、患者もしくは家族等に指導や管理をすると算定できる診療報酬です。
他にも手の施しようもないほどの末期の患者へのケアをした場合や患者を在宅で看取った場合など、状況に応じて算定できる項目が多くあります。
「在宅療養支援診療所」の施設基準を取るメリットは?
訪問診療クリニックが「在宅療養支援診療所」の施設基準を取るメリットについて、基本情報から解説していきます。
在宅療養支援診療所とは
在宅療養支援診療所とは、定められた施設基準を満たした往診や訪問診療を行う医療施設のことです。
在宅療養支援診療所を取るためには24時間365日のうち、常に医師や看護師と連絡がつく状態であり、いつでも診療や看護を行える体制を整えなければなりません。
また1〜3の区分が設けられており、施設基準は1〜3の順に満たすのが難しくなっています。
在宅療養支援診療所の施設基準を取るメリット
在宅療養支援診療所を取るメリットは大きく分けて次の2つです。
- 往診料が加算される
- 在宅時医学総合管理料が高く算定される
在宅療養支援診療所の施設基準を満たすことで、さまざまな項目における算定可能な点数が高くなります。緊急往診加算の点数の違いをその一例として、以下にまとめました。
施設基準を取っていない診療所 | 325点 |
---|---|
在宅療養支援診療所(1)
在宅療養支援診療所(2) |
病床がある場合・・・850点
病床がない場合・・・750点 |
在宅療養支援診療所(3) | 650点 |
どういったクリニックとしてやっていきたいのかなどを踏まえて、事前によく考えておきましょう。
訪問診療の立ち上げを成功させるポイント
訪問診療クリニックを立ち上げ、成功させるために注意すべきポイントとして以下の6つが挙げられます。
- 訪問診療に取り組む理念を決める
- 地域包括ケアシステムの構築
- 特徴を明確にし他院との差別化を図る
- システムの構築は妥協しない
- 今後の事業拡大なども視野に入れておく
- 開設要件や施設基準を理解しておく
これらについて、ひとつずつ解説していきます。
訪問診療に取り組む理念を決める
訪問診療の立ち上げにおいて、まず決めるべきことはどういった理念の元で取り組んでいくのかです。
「患者に対してどんな医療を提供したいのか」「どういうクリニックとして営業していきたいのか」など目指していく方針を明確にしておくことが重要です。
地域包括ケアシステムの構築
訪問医療をしていくにあたって、地域包括ケアシステムの構築・連携は不可欠です。
地域包括ケアシステムには、基幹病院や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所など地域に根ざした機関が含まれています。迅速にこれらが連携することで、緊急時などのどんな場合にも患者の状態やご要望に沿った対応が可能となります。
特徴を明確にし他院との差別化を図る
自身のクリニックが持つ特徴を明確にし、全面に押し出していくことで他院との差別化が図れます。例えば「24時間体制の完備」「重度の障害のある方にも柔軟に対応」「末期の患者の在宅ホスピスにも対応」などです。
ホームページなどを用いて特徴を広めていくことで、患者に安心して理想してもらえるだけでなく、連携を取り合う地域の医療機関の方にもクリニックのことを理解してもらえます。
システムの構築は妥協しない
訪問診療を行っていく上で、導入するシステムの妥協はおすすめしません。訪問診療は作成しなければならない書類が多く、事務作業に時間を奪われかねません。そこで書類の作成を効率的にしてくれるシステムなどを利用することで、全体業務の効率化にもつながるでしょう。
質の高い書類の作成は、連携を取るさまざまな人たちの信用にもつながるので、クリニックを経営していく上でも重要となるでしょう。
今後の事業拡大なども視野に入れておく
訪問診療の立ち上げがうまくいった後の事業拡大についても視野に入れて、開業することが重要です。経営が安定してくると、訪問介護や高齢者向け住宅といった新しい事業も拡大できるようになるでしょう。
事業拡大を進めていけば、自身が運営している高齢者住宅に訪問診療ができるようになります。そうすれば病院に通うのが難しい方でも、快適に暮らしながら医療も受けられます。
開設要件や施設基準を理解しておく
「訪問診療のみ行うクリニックを開業するのか」「外来と訪問診療両方を行うクリニックを開業するのか」によって満たさなければならない開設要件や施設基準が異なります。そのため事前に自分がどういう方針でクリニックを運営していくのかを決めた上で、どういった準備が必要なのかを理解しておくことが重要です。
訪問診療クリニックの営業方法
訪問診療クリニックが、患者を得るための営業方法は主に以下の3つです。
- 訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所、地域連携室を定期的に訪問する
- 施設の新着情報を入手して関係者に挨拶をする
- 紹介してもらった患者さんの情報を密に報告する
訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所、地域連携室を定期的に訪問する
訪問診療クリニックと連携を取り合っている訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所などの機関と定期的にコミュニケーションをとることが重要です。積極的に訪問することで信頼してもらえるようになり、患者を紹介してもらうことにつながります。
施設の新着情報を入手して関係者に挨拶する
有料の老人ホームやサービス付き高齢者住宅など訪問診療が必要となりそうな施設の情報を逐一収集しておき、施設の職員の方などに挨拶をしておきましょう。
あらかじめ面識を持っておくことで、いざ訪問診療が必要となった時に声をかけてもらいやすくなります。
紹介してもらった患者さんの情報を密に報告する
紹介してもらった患者の情報を細かく、紹介者に報告しましょう。それにより紹介してくれた方だけでなく、その方と連携を取っているケアマネジャーなどの関係者ともつながりを作れます。
頻繁に詳しく方向を行えば、つながりを持った方や施設などに信頼してもらい、患者を紹介してもらう機会も増えるでしょう。
まとめ:必要な知識を理解して訪問診療の立ち上げをぜひ検討しよう!
本記事では、ここまで訪問診療を立ち上げるにあたっての基本知識や必要な開業資金、成功させるためのポイントなどについて詳しく解説してきました。
訪問診療は比較的費用を抑えて始められるといったメリットもありますが、施設基準などハードルが高い面も存在しています。
これらの必要な知識を参考にして、訪問診療の立ち上げを1度検討してみてください!