自治体もしくは大学の医師会に属する医師とその家族、従業員が加入できる医師国保。その他にも、協会けんぽや社会保険の厚生年金などさまざまな選択肢があります。
病院経営では、院長やスタッフの健康上のリスクだけでなく、罹災による休診リスクにも備えなければなりません。
勤務医が加入する社会保険とは異なるため、開業医として独立する際は、どの保険に加入すべきか迷うこともあるでしょう。
そこで本記事では、医師国保と従業員の厚生年金について、選択肢や注意点を解説していきます。
この記事の内容
医師国保とは各都道府県の医師会が運営する健康保険
それでは、医師国保について詳しく見ていきましょう。
- 医師国保の名称は都道府県ごとに異なる
- 加入条件・対象
- 医師国保に加入するメリット
医師国保の名称は都道府県ごとに異なる
医師国保(医師国民健康保険組合)は都道府県の医師会が運営している保険のこと。名称は都道府県で異なりますが、自治体もしく大学の医師会に所属する医師であれば加入できます。
例えば、エリアごとに「東京都医師国民健康保険組合」や「大阪府医師国民健康保険組合」などが挙げられます。
医師会によって加入基準は異なるので、詳細は所属の医師会に問い合わせてください。
加入条件・対象
医師国保に加入できるのは、医師会に所属する医師で、従業員が5名未満の病院が対象です。医師の家族や従業員も加入できます。
従業員が5人以上の場合は、社会保険へ加入しなければなりません。一方、個人開業医から法人化した場合は、社会保険の適用外申請で医師国保の継続が可能です。
医師国保に加入するメリット
医師国保に加入するメリットは、保険料が一定で割安なこと。個人開業医は市町村の国保に加入する選択肢もありますが、所得によって保険料が変動します。
所得が多い年は、翌年に収める保険料が高額になりますが、医師国保は所得にかかわらず保険料は変わりません。
また、市町村の国保より保険料が割安です。
医師国保の保険料はいくら?
医師国保の保険料について、東京都医師国民健康保険組合の例で紹介していきます。
種類 | 医療給付保険料 | 後期高齢者支援金等保険料 | 合計 |
---|---|---|---|
第1種組合員 | 27,500円 | 5,000円 | 32,500円 |
第2種組合員 | 13,500円 | 5,000円 | 18,500円 |
第3種組合員 | – | – | – |
第4種組合員 | – | – | – |
家族 | 7,500円 | 5,000円 | 12,500円 |
第1組合員は、東京都医師会会員の開業医や勤務医、第2組合員は従業員が該当します。いずれも条件として、75歳未満で規約に記載の住所地に住民票がなければいけません。
第3組合員は、東京都医師会会員の開業医や勤務医、第4組合員は従業員で、いずれも75歳以上で、規約に記載の住所地に住民票がある方が対象です。
家族は、組合員と住民票上同一世帯に属し、他の国保組合に加入していないことが条件です。
医師国保は、原則として世帯単位の加入が条件となることも覚えておきましょう。
医師国保の加入手続きに必要な書類
それでは、東京都医師国民健康保険組合を例に、加入手続きに必要な書類を紹介していきます。
- 第1組合員
- 第2組合員・家族
- 第3組合員・第4組合員
※各都道府県によって書類が異なる場合もあるので確認してください。
第1組合員
まず、第1組合員の必要書類は以下の通りです。
必要書類
- 加入申込書
- マイナンバー(個人番号)記載のある世帯全員が記載された住民票
- 預金口座振替依頼書
- 保健所コピー(住民票上同一世帯で医師国保に加入していない方)
- マイナンバー(個人番号)確認書類のコピー
- 身元確認書類のコピー
- 医療業務に従事していることの証明書
住民票に個人番号が記載されている場合は、マイナンバー確認書類のコピーは必要ありません。医療業務に従事していることの証明書は、事業主と勤務医では異なります。
事業主 | 診療所開設届 診療報酬請求書 保険医療機関指定通知書 診療所開設許可申請書いずれかのコピー |
---|---|
勤務医 | 雇用契約書 在籍証明書・学生証・身分証・出勤簿 健康保険被保険者適用除外承認申請書いずれかのコピー※ |
※健康保険被保険者適用除外承認申請書のコピーは、厚生年金適用事業所で常勤する場合のみ必要です。
ただし、事業主が医師国保に加入していることが条件となるので注意しましょう。
第2組合員・家族
続いて、第2組合員・家族の必要書類は以下の通りです。
必要書類
- 加入申込書
- マイナンバー(個人番号)記載のある世帯全員が記載された住民票
- 保健所コピー(住民票上同一世帯で医師国保に加入していない方)
- 第1種・第3種組合員に雇用されている証明書
家族は、1と2は同じですが、社会保険等を資格喪失している場合は「資格喪失証明書」が必要です。
第3組合員・第4組合員
第3組合員・第4組合員の加入に必要な書類は、問い合わせが必要です。
新規加入時、すでに法人事務所を開設している場合の加入はできません。開業医は、地区医師会から、東京都医師会へ加入している必要があります。
医師国保の他に加入できる各種保険
では、医師国保の他に加入できる保険について解説していきます。
- 国民健康保険
- 組合健保
- 協会けんぽ
- 労災保険
- 雇用保険
- 国民年金保険
- 厚生年金保険
国民健康保険
国民健康保険と医師国保との違いは、所得によって次年度の保険料が変わることです。
従業員5名以下の個人開業医であれば、社会保険への加入義務はありません。ですが、健康保健への加入は法律で義務付けられているので、医師国保に加入できない場合は、国民健康保険への加入を検討しましょう。
保険料は、所得割額+均等割額で年間保険料が決まります。
組合健保
組合健保は、中規模企業や大規模企業が加入する健康保険のことです。
700人以上の従業員がいる事業所、または共同設立で3,000人以上の従業員がいる場合に、健康保健の運営ができます。
ただし、健康保険の運営には、事業主が構成労働大臣の認可を受けなければいけません。
保険料は、原則、事業所負担が1/2、被保険者負担が1/2です。
参照:国税庁・健康保険料の事業主負担(2分の1以上の負担)による経済的利益
協会けんぽ
協会けんぽは、2008年10月に国が運営していた健康保健事業を引き継ぐ形で、設立された公法人です。
加入可能な対象は、中小企業で働く従業員とその家族。健康保健組合がない事業所で勤務する方が加入できます。
保険料は、標準報酬が58,000円の場合だと健康保険料は5,800円、厚生年金保険料は16,104円になります。
参照:令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京)
労災保険
労災保険は、業務中や通勤中に負傷や疫病、障害または死亡に対して、労働者または遺族に保険金を支払う保険です。
従業員を雇う場合、1週間の労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがあるなら加入が義務付けられています。
保険料は、前年度1年間の全従業員賃金総額×労災保険料率で決まり、雇用保険料と合わせて事業所が支払う仕組みです。
参照:東京労働局
雇用保険
雇用保険は、労働保険の一種であり、雇用におけるあらゆる支援を行う制度です。
失業や休業時の給付や雇用の安定を図るうえで再就職の援助をするといった目的もあります。労災保険と同様に1週間の労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがあるなら加入しなければなりません。
65歳以上の高齢者も「高年齢被保険者」として適用されます。
保険料は、「給与額または賞与額×雇用保険料率」で算出されます。
例えば、給与額(賃金)が40万円のケースを見ていきましょう。保険料の計算式に当てはめると以下の計算結果になります。
- 労働者負担:40万円×6÷1,000=2,400円
- 事業主負担:40万円×9.5÷1,000=3,800円
このように、賃金と保険料率が明確であれば計算しやすいでしょう。
なお、医師も雇用保険に加入できます。
国民年金保険
国民年金保険は、国内在住の20歳~60歳未満の方(第1被保険者)は加入が義務付けられています。対象は自営業・農業・林業などです。
勤め先で厚生年金保険や共済組合に加入している方(第2被保険者)は、組合が保険料を収めます。第2被保険者の配偶者(第3 被保険者)も、組合が保険料を収めるので、自分で支払う必要はありません。
ただし、第1被保険者の扶養となる配偶者は、自分で保険料を支払う必要があります。2023年度の保険料は、月額16,520円です。
年金は原則65歳から受給できますが、66歳から75歳までの繰り下げ受給では、年金受取額が増額されます。
参照:日本年金機構
厚生年金保険
厚生年金保険は、厚生年金保険の適用を受ける事業所に勤務する70歳未満の会社員または、公務員が加入できます。
クリニックに常勤従業員が5人以上在籍する場合、厚生年金保険への加入が強制となります。必ず加入しなければいけません。
上記以外でも、従業員が101人以上の企業や、労働時間が週に20時間を超える場合、2ヶ月以上のフルタイム勤務見込みがある場合なら対象です。
保険料は、毎月の給与×保険料率、賞与×保険料率で決まりますが、事業所との折半になり、従業員が支払う分は給与から天引きされます。
参照:日本年金機構
医師国保の注意点
医師国保は保険料が一定ですが、以下2点は留意点です。
- 収入が減った場合は保険料が高く感じること
- 扶養家族が増えるごとに保険料が上がること
医師国保は同一世帯での国民健康保険との混在が認められていません。同世帯に国民健康保険加入者がいる場合は、医師国保への変更が必要です。
自家診療医分の保険請求はできないので注意してください。
まとめ:医師国保を理解して適切な制度を利用しよう
医師国保は、医師会に所属している開業医で、従業員が5人以内であれば加入できます。
クリニック経営をするにあたり、こうした保険制度の理解は欠かせません。
「自院がどの保険が加入対象なのか」「強制の対象に入るのか」「どの制度がお得なのか」など、しっかりと検討する必要があります。
医師国保をはじめ、保険制度を理解して、適切な制度を活用してください。