GLTD制度(団体長期障害所得補償保険)は、収入の安定や福利厚生の充実を通じて、従業員の満足度向上や人材定着率の改善に役立つ制度です。一方で、保険料の負担や固定費の増加といった課題もあり、理解を深めることが重要な保険です。
本記事では、GLTD制度のメリット・デメリット、具体的な補償内容、や導入事例について詳しく解説します。導入を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の内容
GLTD制度の4つのメリット
GLTD制度(団体長期障害所得補償保険)は、従業員にとって安心をもたらす制度です。ここでは、この制度がもたらす4つのメリットについて詳しく解説します。それぞれのポイントを確認し、導入を検討する際の参考にしてみてください。
- 収入の安定性を確保できる
- 福利厚生が充実している
- 企業への信頼度UPにつながる
- 補償内容に柔軟性がある
1.収入の安定性を確保できる
GLTD制度(団体長期障害所得補償保険)は、病気やケガで長期間働けなくなった場合でも、収入の50〜70%程度を補償する仕組みです。
特に、公的保障が十分でない開業医や自営業者などにとって、この制度は生活費や家族の経済的安定を維持する重要な手段となるでしょう。
一般的に、公的な障害年金や労災保険だけでは収入を十分に補えないケースが多いため、GLTD制度を導入することで、万が一の際にも安定した収入が得られます。これにより、収入減少による心理的な不安を軽減し、治療やリハビリに専念することができ、業務復帰の環境を整えられるでしょう。
2.福利厚生が充実している
GLTD制度の導入は、クリニックの福利厚生を向上させ、従業員に安心感を与えます。万が一の際に生活を支える保障があることで、従業員満足度の向上にも寄与するでしょう。
福利厚生が充実しているクリニックは、職場環境を重視する求職者にとって魅力的に映り、採用効率の向上にも期待できます。さらに、従業員の満足度向上は、職場の定着率やモチベーションの向上にもつながります。
人材確保が課題となる医療業界において、GLTD制度の導入は働きやすい環境づくりを実現し、クリニックの競争力を高める重要なポイントとなるでしょう。
3.企業への信頼度UPにつながる
GLTD制度は、従業員が長期間働けなくなるリスクに備える制度です。制度の導入により、企業が経済的支援を提供する姿勢を示すことで、従業員からの信頼感が高まる効果が期待できます。
福利厚生の充実が求められる現代の労働環境において、GLTD制度の導入は「安心して働ける職場」として評価される要因となります。結果として、従業員の定着率向上にもつながり、企業としての姿勢を可視化する手段としても有効です。
4.保障内容に柔軟性がある
GLTD制度は、保障内容の柔軟性が大きな特徴です。保障開始期間を3か月後や6か月後などから選べるため、貯蓄や他の保険とのバランスを考慮しながら、状況に合った契約が可能です。補償額も給与の一定割合(50〜70%など)を基準に調整できるため、ニーズに応じたプラン設計が行えるのも魅力でしょう。
さらに、一般的な生命保険や医療保険ではカバーしきれない「働けない期間」を補償することで、経済的な空白期間を埋める役割を果たします。保険金の受給期間も短期間から長期間まで柔軟に設定できるため、長期的なリスクヘッジにも対応可能です。
GLTD制度の3つのデメリット
GLTD制度は多くのメリットがある一方で、導入に際してはデメリットも考慮する必要があります。ここでは、制度の利用における3つのデメリットについて解説します。
- 保険料が割高になる場合がある
- 補償開始までの待機期間がある
- 固定費の負担が増える
保険料が割高になる場合がある
GLTD制度は、団体契約による割引が適用されるため保険料を抑えられる一方、従業員数が少ない場合は団体割引が適用されないケースもあるため、保険料が割高になる可能性があります。また、補償内容を手厚く設定すると、その分保険料が増加する点も考慮が必要です。
特に小規模なクリニックや事業所では、コストと補償内容のバランスを慎重に検討しなければなりません。保険料の負担が事業運営に与える影響についても、事前にシミュレーションを行うことが重要です。
補償開始までの待機期間がある
GLTD制度には、通常3〜6か月の待機期間(免責期間)が設けられており、補償が開始されるまで一定の期間が必要です。待機期間中に就業不能となった場合、その間の収入は補償されないため、短期間の収入減少に対応しづらいケースもあります。
特に、貯蓄や短期補償が可能な他の保険がない場合、治療費や生活費の負担が一時的に増加し、経済的な不安を感じることもあるでしょう。そのため、GLTD制度を導入する際は、待機期間中のリスクを補うための貯蓄や短期補償との併用を検討することが大切です。
固定費の負担が増える
GLTD制度を導入すると、保険料が固定費として発生するため、経営における固定費の割合が増加します。
医療機器のリース料や施設維持費、人件費など、もともと固定費が高いクリニックにとっては、追加の保険料負担が経営を圧迫する可能性も考えられます。
GLTD制度を導入する際には、保険料の負担額を経営計画に組み込み、収益とのバランスを慎重に検討することが重要です。導入後の経営に対する影響をしっかりと試算しておくことで、無理のない安定した運用ができるでしょう。
GLTD制度(団体長期障害所得補償保険)とは?
GLTD制度(団体長期障害所得補償保険)は、病気やケガで長期間働けなくなった場合に、生活を支えるための所得を補償する保険制度です。従業員が勤務不能状態に陥った際、一定期間の待機期間後に給与の一部を保険金として受け取れる点が特徴です。
この制度は、医療従事者や開業医のように専門的なスキルに依存する職種において、経済的なリスクヘッジとして注目されています。日本での普及率はまだ低いものの、海外では企業福利厚生の一環として広く導入されています。
近年では、日本の企業やクリニックでも導入事例が増えつつあり、従業員の安心感向上や人材定着率の改善につながる制度としても注目されています。
GLTD制度の補償内容
GLTD制度の補償対象は、病気やケガによる長期の就業不能状態に限定されます。一般的に、医師の診断書を提出し、一定の待機期間を経た後に給付が開始されます。
補償額は通常、給与の50〜70%が基準とされ、生活維持に必要な収入を確保する設計です。保証期間は、就業不能状態が続く限り、または定年退職年齢までとなる場合が多く、長期的な補償が可能な点が特徴です。
さらに、補償内容のカスタマイズも可能で、クリニック経営者が独自のニーズに合わせて柔軟に設計できる場合もあります。
GLTD制度の保険料相場
GLTD制度の保険料は、加入者の年齢、収入、職業、補償内容などによって異なるのが特徴です。
基本的な計算基準は、補償額(給与の一定割合)と補償期間に基づき、リスクに応じて算出されます。加入者の年齢が若い場合、リスクが低いと見なされ、保険料が安くなる傾向にあります。一方で、年齢や収入が高い場合や、補償内容を充実させた場合などには、保険料が高くなる傾向にあります。
ただし、GLTD制度は団体契約が前提となるため、団体加入割引が適用される点がポイントです。クリニックなど職場単位で導入することで、個人で加入するよりも割安な保険料で制度を利用できるメリットがあります。
GLTD制度と類似する保険と違い
GLTD制度は他の保険と似た点もありますが、補償内容や加入形態において独自の特徴があります。ここでは、以下2つの保険との違いについて解説します。
- 所得補償保険との違い
- 就業不能保険との違い
所得補償保険との違い
所得補償保険は、病気やケガで働けなくなった場合に所得を補償する個人向け保険です。働けない期間に一定の補償が受けられる点は、GLTD制度と共通しています。
しかし、GLTD制度は団体契約が前提であるのに対し、所得補償保険は個人契約が主流です。そのため、GLTD制度が団体加入割引により保険料が抑えられる一方、所得補償保険は保険料が割高になる傾向があります。
また、GLTD制度は従業員の福利厚生として導入できるため、従業員の長期離脱による組織の経済的負担軽減につながるのも特徴です。
就業不能保険との違い
就業不能保険は、病気やケガで就業不能状態が続く場合に、生活費を補うための保険金を支給する個人向けの保険です。
GLTD制度との主な違いは、補償額と期間にあります。
就業不能保険は加入時に設定した固定金額が支給されるのに対し、GLTD制度は給与の一定割合(通常50〜70%)に基づいた補償が受けられます。また、就業不能保険は補償期間が1〜2年程度と短期間に限定されることが一般的です。一方でGLTD制度は、定年退職年齢まで補償が継続する場合が多く、長期的なリスクヘッジが可能です。
そのため、GLTD制度は長期的な補償を重視する企業やクリニックに適しており、従業員の安心感向上や福利厚生の一環として導入されるケースが増えています。
GLTD制度を導入した企業の事例
GLTD制度を導入する企業の多くは、福利厚生の充実や従業員の安心感向上などを目的としています。ここでは、具体的な導入事例を3つ紹介し、制度の背景や導入後の効果などについて解説します。企業がどのように制度を活用しているのか、参考にしてみてください。
- 電子機器メーカー(キャピタル損害保険)
- 専門商社
- 情報通信サービス企業(株式会社アドバンテッジリスクマネジメント)
1.電子機器メーカー(キャピタル損害保険)
電子機器メーカーのキャピタル損害保険株式会社では、従業員の長期休職による収入減少への備えが不十分である点を課題として、GLTD制度を導入しました。
制度の特徴として、全員加入プランを基本とし、健康保険給付終了後に給与の一部を補償する形を採用。さらに、任意加入プランを用意し、最大で定年まで給与の70%を補償する仕組みを整えました。
導入後は、従業員の経済的な不安が軽減され、治療やリハビリに専念できる環境が実現しました。また、福利厚生の充実をアピールすることで企業イメージが向上し、採用活動にも良い影響を与えています。
2.専門商社
福利厚生の強化と健康経営の推進を目的に、GLTD制度を導入した事例もあります。背景には、病気やケガによる長期休職時の収入減少が従業員にとって大きな負担となっていたことが挙げられます。
この企業では、基本補償を会社負担とし、手厚い補償を希望する従業員には任意加入制を採用。導入後は従業員満足度が向上し、人材採用にも効果を発揮しました。
また、職場復帰支援やストレスチェックといった付帯サービスの活用により、健康経営への取り組みがさらに強化されています。現在、従業員の約3割が任意加入していることからも、制度に対する高い関心が伺えます。
3.情報通信サービス企業(株式会社アドバンテッジリスクマネジメント)
ある情報通信サービス企業では、従業員満足度(Employee Satisfaction: ES)の向上と、長期休職時のリスク対策としてGLTD制度を導入しました。
導入にあたっては、既存の福利厚生制度を一つ廃止し、その予算をGLTD制度に振り分けることで全社員に平等な補償を提供しました。さらに、任意加入制度を併用することで、手厚い補償を希望する社員にも柔軟に対応しています。
導入初年度には任意加入率が55%、2年目には65%に達し、従業員から高い評価を得ています。この結果、従業員の経済的な安心感が高まり、企業全体の福利厚生の充実が実現しました。
参照:株式会社アドバンテッジリスクマネジメント「GLTD(団体長期障害所得補償保険)導入事例インタビュー」
まとめ:GLTD制度はメリット・デメリットを踏まえて導入を検討しよう
GLTD制度は、収入の安定や福利厚生の充実、従業員満足度の向上など多くのメリットがあります。一方で、保険料が割高になるケースや固定費の増加、補償開始までの待機期間など、デメリットも存在します。
導入を検討する際には、制度の詳細をしっかりと把握し、経営状態や従業員ニーズとの適合性なども慎重に見極めることが重要です。制度の導入が企業にとって最適な選択となるよう、メリットとデメリットを総合的に考慮し、判断しましょう。