動物病院を経営していて、M&Aをするかどうか検討している方はいらっしゃいませんか?
動物病院のM&Aは近年活発になってきており、多くの事例が存在します。M&Aを行うことで、獣医師などの人材を確保できたり経営の安定化を図れるなど多くのメリットを得られます。
本記事では、動物病院業界のM&Aの動向やメリット・デメリット、取引を成功させるためのポイントなどについて解説していきます。M&Aに興味のある方は、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の内容
動物病院業界のM&Aの市場動向と現状の課題について
昨今の動物病院業界は以下のような理由からペットへの医療ニーズが高まり、市場が拡大しています。
- ペットの高齢化が進行
- ペットの多種化問題が深刻化
- ペットにお金をかける飼い主が増加
- ペットの医療技術における進歩
- 高齢獣医師における廃業件数の増加
- 若手獣医師における開業の困難化
市場が拡大しM&Aが活発になっているものの、動物病院は個人経営が多く、多種多様なニーズや高度化する医療技術に対応し切れていないのが現状です。
ペットの高齢化が進行
近年ペットの寿命が延び、高齢ペットが増加しています。これに伴い、老年病や慢性疾患などの医療需要が高まっており、動物病院の経営にも影響を与えています。
ペットとして飼われていることの多い犬や猫の平均寿命について見ていきましょう。
2022年の平均寿命 | 2010年の平均寿命との差 | |
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犬 | 14.76歳 | +0.89歳 |
猫 | 15.62歳 | +1.26歳 |
参照:2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査 結果|一般社団法人 ペットフード協会
このように犬や猫の平均寿命は延びており、ペットの高齢化が進行していると言えます。この傾向は今後も続いていくと予測され、動物病院への需要はさらに高まっていくでしょう。
ペットの多種化問題が深刻化
近年では、犬や猫だけでなくハムスターや鳥類、は虫類などといった動物を飼う人も増えています。こういった動物に対しての治療には専門的な知識と技術が必要となり、動物病院のM&Aにおいても専門性の高さが求められます。
メジャーではない動物への診療には、特定の設備や薬品が必要となる場合があり、これが動物病院にとって大きな課題となっているのが現状です。
ペットにお金をかける飼い主が増加
ペットの家族化が進み、ペットに対して高額な医療やサービスを利用する飼い主が増加しています。
こうしたニーズに応えるには、高性能な医療設備の導入や高い医療技術の提供が求められるため、これに対応できる動物病院の買収が活発化してきています。
ペットの医療技術における進歩
獣医学の進展により、ペットの医療技術は日々進歩しています。特に外科手術や画像診断、再生医療などの分野で進化が著しく、動物病院は新たな技術を取り入れることを求められています。
新たな技術を導入することで治療の選択肢が広がり、より詳細な健康管理や多様なペットへの治療を可能にするでしょう。
高齢獣医師における廃業件数の増加
日本国内では獣医師の高齢化が進んでおり、それにより廃業を余儀なくされる動物病院が増加しています。この流れに対して、M&Aを通じた事業継承が注目されています。
特に獣医師の高齢化が顕著にみられる地方においては、地域のペット医療サービスが不足しつつあるのが課題です。
若手獣医師における開業の困難化
動物病院の開業には多額の資金が必要となり、若手獣医師にとっては大きな負担です。そのため、既存の動物病院を買収して開業するというケースが増えています。
以下のような理由から、若手獣医師にとって動物病院の買収は魅力的な選択肢になりつつあります。
- 開業資金の確保
- 経営ノウハウの確保
- 設備投資の負担軽減
動物病院のM&Aの相場について
動物病院のM&Aを行う場合、病院の規模や売上など様々な要因から売却金額が変わるため、一概に相場を定めることはできません。
M&Aを行う際に相場を見定めるには、以下のような要因を事前に把握しておきましょう。
- 年間収益
- 立地条件
- スタッフの質
- 医療設備
動物病院の年間収益はM&Aの評価において最も重視される要素の一つであり、収益の2〜5倍程度が売却金額の相場だと言われています。金額だけでなく、収益の安定性や成長性なども相場に影響します。
他にも「患者が通いやすい立地かどうか」や「スタッフの経験や能力」、「医療設備が充実しているか」などの要素によっても売却金額が変化するので、確認しておきましょう。
ただ、動物病院業界におけるM&Aは他業種に比べて、売却金額が安くなるケースが多いようです。その理由は様々ですが、経営している獣医師や経営難に陥っていることが原因となっています。
自院を存続させることを優先し、スピーディーにM&Aを終わらせるためにも、売却金額を安く設定して取引を進めるケースが増えています。
動物病院のM&A事例を3つ紹介!
ここでは、動物病院業界のM&A事例として以下の3つを紹介していきます。
- 事例1:アニコム動物病院の買収
- 事例2:VCA動物病院の買収
- 事例3:東京イースト獣医協会動物医療センターの買収
これらの事例から具体的なイメージを掴み、M&Aを進めてみてください。
事例1:アニコム動物病院の買収
施行日 | − |
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買収(売却)先 | 買収先:アニコムホールディングス株式会社 |
現在 | 後継者問題を起床し継続的な運営を実現 |
参考:https://www.anicom-med.co.jp/hospital/partner.html
アニコムホールディングス株式会社は、ペット保険やペット医療の研究などを行っている企業です。多くの動物病院をグループ化し、事業やエリアの拡大を図っています。
アニコムが行った事例の多くは、後継者不足やスタッフの雇用の確保、継続的な運営といった動物病院が抱える課題の解消を目的としています。
事例2:VCA動物病院の買収
施行日 | 2017年1月 |
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買収(売却)先 | 買収先:Mars Incorporated 売却先:VCA動物病院 |
現在 | ペットケア事業を拡大し、動物向け医療サービスを展開 |
参考:日本経済新聞
2017年1月、アメリカのMars Incorporatedは、VCA動物病院を買収し傘下に加えました。
Mars Incorporatedは「スニッカーズ」や「M&M’s」などのチョコレート菓子を製造・販売している企業です。
お菓子事業と並んで主要な事業となっているペットケア事業を拡大し、新たに動物向け医療サービスを展開することを目的としてM&Aが行われました。
事例3:東京イースト獣医協会動物医療センターの買収
施行日 | 2022年6月 |
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買収(売却)先 | 買収先:イオンペット株式会社 売却先:東京イースト獣医協会動物医療センター |
現在 | 地域での動物病院間の連携を強化 動物医療の水準を向上 |
参考:株式会社東京イースト獣医協会動物医療センターの全株式の取得および子会社化のお知らせ
2022年6月、イオンペット株式会社は東京イースト獣医協会動物医療センターを買収し、子会社化しました。
このM&Aは、地域における動物病院間の連携を強化し、エリア全体の動物医療の水準を向上させるために行われました。その結果、病気の予防から難度の高い治療まで幅広く対応できる病院となっています。
【買い手側】動物病院のM&Aのメリット・デメリット
ここでは、買い手側の動物病院のM&Aを行うメリット・デメリットについて解説していきます。
メリット
新規顧客も獣医師などの人材も手に入る
M&Aでは買収した動物病院の既存顧客やスタッフをそのまま引き継ぐことができるため、即座に営業を開始できます。これは新規開業と比べて大きなアドバンテージです。
本来新しい病院を開くには、ゼロから顧客基盤を築く必要がありますが、買収することによってそのための時間や労力を大幅に削減できます。
また、買収による人材の引き継ぎは、経験豊富な獣医師やスタッフを確保する点でも有利にはたらきます。優秀な人材は競争率が高く獲得が難しいものですが、M&Aを行うことで貴重な人材を一手に獲得できます。
医療設備や施設を使って開業コストを抑えられる
既存の施設と医療機器をそのまま利用できるため、新たに大規模な設備投資を行う必要がありません。これにより、初期費用を大幅に抑えて開業できます。
新しい機械や建物を用意するには莫大なコストがかかりますが、既存のものを活用することで、経営のリスク軽減にも繋がるでしょう。
また設備だけでなく、施設の立地条件や周辺環境も考慮に入れてM&Aを行うことで、既存のインフラを効果的に活用できます。特に都市部やペット需要の高いエリアに位置する病院を買収すれば来院してもらいやすく、病院運営が軌道に乗るまでの期間を短縮できるでしょう。
事業エリアの発展やグループ拡大を図れる
多店舗展開を目指す動物病院グループにとって、既存の動物病院を買収することはスムーズなエリア拡大につながります。新規店舗を1から始めるよりも短期間でエリアを広げられるので、市場シェアを拡大するチャンスが増えるでしょう。
また地域特性に応じたサービス提供が可能になるため、顧客満足度の向上とリピーターの増加も期待できます。例えば、ペット需要の高い大都市圏エリアに進出することで、動物病院グループの顧客基盤を強化できるでしょう。
デメリット
開業する場所を変えられない
M&Aにより手に入れた動物病院はすでに立地が決まっているため、場所を変えて新たに開業することはできません。買収後の経営戦略を考える際に、この制約が不利に作用する場合があるので注意しましょう。
立地条件は顧客の利便性やアクセス性に影響を与えるため、M&Aを行う際には慎重に検討しましょう。場合によっては、新規店舗の追加や既存店舗のリノベーションが求められることもあります。
多額の資金が必要となる
動物病院を買収するためには、当然ながら多額の資金が必要です。見積もりに不備がある場合、予算に大きな影響を与える可能性があります。そのため、資金調達の規格時には複数のパターンを想定し、予算オーバーのリスクを最小限に抑えるための対策をしておくと安心です。
また、買収後の運転資金や従業員の給与、設備のメンテナンス費用なども考慮に入れましょう。これらの費用も含めると、M&Aにかかる総資金が予想以上に膨らむことがあるので、事前に十分な資金計画を立てることが重要です。
従業員が離れるリスクがある
M&Aを行うことで経営方針が変わったり、組織内で摩擦が生じて従業員が離れるリスクがあります。特に買収後の経営方針が大きく変わる場合、従業員の不安や不満が高まり、さらなるトラブルを生み出す可能性があるので注意が必要です。
こういったリスクを避けるためには、事前に従業員とコミュニケーションを取る場を設け、従業員の声を聞いておくことが重要です。買収後、従業員が新しい経営体制にスムーズに移行できるよう、リスク管理を徹底することが求められます。
【売り手側】動物病院のM&Aのメリット・デメリット
ここでは、売り手側の動物病院のM&Aを行うメリット・デメリットについて解説していきます。
メリット
獣医師の雇用を確保できる
動物病院を売却することで、従業員である獣医師やスタッフの雇用が新しい経営者により継続されるため、安心して次のステージに進むことができます。
M&Aによって経営体制が変更されると、従業員の中にも少なからず混乱が生じてしまいます。そこで従業員達の雇用を守れば、新たな経営体制に対して信頼感を持って働いてもらえるでしょう。
後継者問題を解決して経営を安定化できる
高齢化した獣医師が引退を考える際、後継者がいないと動物病院の存続が困難になってしまいます。M&Aにより、動物病院グループの傘下に入れば、信頼できる後継者を見つけることができます。
後継者を見つけ経営基盤が確立すると、経営者自身が安心して引退でき、病院側も新しい体制でスムーズに運営を続けられるでしょう。
売却や譲渡により利益を得られる
動物病院を売却することで、その対価として大きな利益を得られます。これにより、老後の資金や新たなビジネスへの投資資金を確保できます。
特に引退を考えている獣医師にとって、M&Aによる売却益は老後の生活を安定させるために重要です。
デメリット
引き継ぎに時間がかかる
動物病院のM&Aにおいては、特に専門的な知識や技術が必要となるため、引き継ぎに時間がかかることがあります。スムーズに経営を引き継ぎ、新たな病院として運営していくためには、事前の綿密な計画と準備が必要不可欠です。
また新しい経営者が従来のサービス水準を維持するためには、買い手と売り手だけでなく、従業員とコミュニケーションを取り、協力することが重要でしょう。
既存の顧客やスタッフから反対される場合もある
M&Aによる経営者の交代に対して、既存の顧客やスタッフが不安を感じ、反発を生む可能性があります。新しい経営者が信頼を得るためには、反対意見に対して誠実に対応することが大切です。
透明性を持ったコミュニケーションを心がけ、寄せられた意見を経営に反映させることが、スタッフや顧客の信頼を得るための鍵になります。
動物病院のM&Aを成功させるためのポイント
動物病院のM&Aを成功させるために気をつけるべきポイントは、主に以下の3つです。
- M&Aの目的を明確にしておく
- M&Aの相手は慎重に選定する
- M&Aの仲介サービスを活用する
M&Aを行う際には、これらのポイントを意識して進めてみてください。
M&Aの目的を明確にしておく
動物病院のM&Aを成功させるためには、まずM&Aの目的を明確にしておくことが重要です。例えば「事業拡大のためなのか」や「経営者交代のためなのか」、「経営基盤の安定化のためなのか」など具体的にしておきましょう。
目的をはっきりさせておくことで交渉や取引の方向性が定まり、失敗のリスクを最小限に抑えられます。
M&Aの相手は慎重に選定する
信頼性や経営方針など、M&Aの相手選びは極めて重要です。M&A相手の選定に入る前に、強化していきたい分野や拡大したい事業を洗い出しておき、条件に沿った動物病院を選びましょう。
相手を選ぶ際には、以下のような要素に注意して選んでみてください。
- 財務状況
- 過去の業績
- 経営方針の一致
- ビジョンが共有されているか
財務状況や過去の業績はもちろんですが、経営方針やM&A後のビジョンを共有できる相手かどうかを確認しておきましょう。「どういう方針で経営し、どのような病院にしたいのか」のイメージが異なっていると、M&A後に組織内で摩擦が生じ、トラブルになりかねません。
M&Aの仲介サービスを活用する
仲介サービスを活用することで、M&Aを効率的に進めることができます。仲介サービスを利用すると交渉や取引のサポートを受けられ、不安なことやわからないことがあれば何でも相談できるので安心でしょう。
仲介サービスを選ぶ際には過去の実績や料金、サポート内容など、効率的にM&Aを進めるために必要な要素を兼ね備えているかを調べておくことが重要です。
動物病院のM&Aに強いおすすめの仲介サービス3選
動物病院のM&Aに強いおすすめの仲介サービスは以下の3つです。
- 獣医療事業承継支援
- A-BRAIN
- 動物病院特化型M&A
獣医療事業承継支援
獣医療事業承継支援は、動物病院が抱える様々なお悩みに対応し、最適なM&Aを支援する仲介サービスです。
専門知識を持ったコンサルタントや豊富な実績が強みであり、自院に足りない要素を補える企業を紹介してくれます。また電話やメールから無料で相談できるため、問い合わせるハードルが低いのも特徴です。
A-BRAIN
A-BRAINは獣医師の開業を支援するサービスであり、新規開業と承継開業の両方をサポートしてくれます。
開業後のビジョンや資金力、開業エリアのニーズなど、様々な条件を含めて支援してくれるため、理想の動物病院を実現できるでしょう。
また承継開業の支援では、M&Aを行う利点だけでなくリスクも考慮して進めます。具体的な流れをイメージを掴みやすく、安心感を持って任せられるでしょう。
動物病院特化型M&A
動物病院特化型M&Aでは、動物病院業界に精通したコンサルタントチームが要望に応じて柔軟なサポートを提供してくれます。豊富な実績で培われたノウハウやネットワークを駆使して、それぞれの動物病院に最適なM&A相手をマッチングしてくれるのが魅力です。
また相談してからM&Aの取引が終了するまでがスピーディーで、後継者問題や経営難などで時間が限られている場合でも対応できるでしょう。
まとめ:動物病院のM&Aはポイントを押さえて進めよう
本記事では、ここまで動物病院業界の動向やM&Aのメリット・デメリット、取引を成功させるためのポイントなどについて解説してきました。
M&Aを行うことで、経営の安定化や事業拡大を図れるだけでなく、後継者の確保といった業界特有の課題を解消できます。こういったメリットを最大限に得るために、解説したポイントを押さえてM&Aを進めていきましょう。
動物病院のM&Aを検討している場合は、ぜひ参考にしてみてください。