「念願の開業を果たしたけど、あんまり経営がうまくいかない…」
「歯科医院の開業を目指しているけど、失敗したという話もよく聞くし不安…」
開業医の方や開業を目指す勤務医の方で、このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
世の中には、多くの歯科医院が点在しますが、毎年一定数の歯科医院が廃業に追い込まれているという現実があります。
廃業しないためにも、正しい経営方法や経営に必要なスキルを身に着けることが大切です。
この記事では、開業して失敗する歯科医院の特徴7つと、経営を安定させるポイントを紹介します。
この記事の内容
歯科医の開業と廃業件数はほぼ同じ|歯科医院経営の現状
まずは、歯科医院経営の現状についてご紹介します。
コンビニの数よりも多いと言われる歯科医院ですが、1年間の歯科医院の開業と廃業件数はほぼ同じであるというデータもあります。
日本全国のコンビニの店舗数は、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の調査によると令和6年2月時点で55,657件と公表されました。一方歯科診療所の数は、厚生労働省の調査によると令和4年10月時点で67,755件と、1万軒以上の差があります。
また、令和3年(2021年)10月~令和4年(2022年)9月における歯科診療所の開業数は、1,333件で、同期間の廃止件数は1,410件です。
コンビニよりも多く歯科診療所がある中、毎年1,000件ほどの歯科診療所が廃業している現状から、どこかに失敗する原因があると考えられます。
こうした現状を踏まえて、以降で紹介する失敗する歯科医院の特徴をおさえましょう。
参照:コンビニエンスストア 統計データ|一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会
参照:令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況|厚生労働省
開業して失敗する歯科医院の特徴7つ
廃業に追い込まれる歯科医院は、どこかで失敗してしまっていると考えられます。
それでは実際、何に気を付けて経営を進めていけばいいのでしょうか。
開業して失敗してしまう歯科医院の特徴は、主に以下の7つです。
- 事業計画や資金繰りが甘い
- 経営のノウハウがない
- 他院との差別化ができていない
- 新規患者の集患ができていない
- 2回目以降リピートしてくれる患者が少ない
- スタッフの採用や育成体制が整っていない
- 開業をコンサルタントに任せ切りにしている
1.事業計画や資金繰りが甘い
経営を失敗してしまう原因として多く挙げられるのが、資金面での見通しが甘く、事業計画や資金繰りが上手くできていない場合です。
歯科医院の開業資金は、物件の確保や内装工事、医療機器や設備の準備などでコストがかかり、他業種よりも多額の費用が必要です。
相場はおよそ5,000万円以上必要とされていますが、借入に頼る場合は毎年安定した収益を得ていかないと返済が厳しくなってしまいます。
しかし歯科医院の開業後、想像以上に収入が低く、赤字になってしまったというケースも少なくありません。
そういった事態を防ぐために、患者数や単価を予想して綿密な事業計画を立てておきましょう。
2.経営のノウハウがない
経営のノウハウがないと開業しても失敗する可能性が高いです。
歯科医師として働くには、大きく分けて開業医か勤務医のどちらかとなります。
勤務医であれば、大学の歯学部で6年間履修したのち、歯科医師国家試験に合格すれば、1年以上の臨床研修を経て歯科医師として働けます。
しかし、開業医になると経営スキルも身につけなければなりません。財政知識やマーケティング、従業員の教育など、さまざまなノウハウが求められます。
経営ノウハウを身につけた上で開業を検討してみてください。
3.他院との差別化ができていない
他の歯科医院と差別化ができていなければ、競争にも勝てずに思うような集患ができません。
住宅地にある地域に根ざした医院なら自然と患者は集まりやすいでしょう。しかし、駅前など立地の良い場所なら、他の歯科医院との競争が激しいと予想できます。
「ここに通いたい」と思ってもらうには、医師の技術の高さだけでなく、「落ち着きのある雰囲気」「接しやすい人柄のスタッフ・医師」などの差別化点が必要です。
歯科医院として、他とは違う魅力あるコンセプトを掲げ、患者さんにアピールしていきましょう。
4.新規患者の集患ができていない
新規患者の集患ができていなければ、患者を増やすことができず、経営難に陥ってしまいます。
新規開業の場合は、そもそも認知されていません。まず周辺の地域住民から認知してもらう施策が求められます。
新規患者は、以降で紹介する方法を実施して増やしていきましょう。
5.2回目以降リピートしてくれる患者が少ない
2回目以降リピートしてくれる患者が少ないと、安定した収入は見込めません。
リピーターが増えない原因として考えられるのは、以下の理由です。
- 医師の腕が良くない
- 待ち時間が長い
- スタッフの対応が悪い
まず医師の腕がいいと感じられない場合は、次も来ようとは思ってもらえないでしょう。
「治療の際に痛いと感じることが多い」「親身に話を聞いてもらえない」などの理由から、医師への評価が低くなる可能性があります。
待ち時間に関しても、予約時間の通りに行ったのに待たされたと感じた患者は、リピートしたいとは思ってもらえないでしょう。
対応できるだけの患者を受け入れるようにして、待ち時間を長引かせないようにしたいです。
スタッフの対応が悪いことに関しては、教育不足が考えられます。
受付窓口での対応は、そのクリニックへの印象を決める要因の一つとなるため、マニュアルを作成して教育する必要があります。
6.スタッフの採用や育成体制が整っていない
スタッフの採用や、育成体制が整っていなければ、失敗してしまう可能性も高くなります。
採用面で失敗してしまうと、人員が不足して労働環境が悪化し、さらに人が辞めていくなど悪循環に陥ってしまいます。
人手不足のクリニックでは、労働が激務となり休憩が取れない、休みも取れないといったいわゆる「ブラック」な環境になってしまいがちです。
スタッフ一人ひとりが余裕を持って働けるように、人員は最低限ではなく適正人数を雇うようにしましょう。
十分なスタッフの数を確保したら、スタッフの育成にも力を入れなければなりません。
スタッフの対応が悪かったとなれば、病院の評判は落ちてしまいます。さらに、診療中の補助においても、ミスが多発すれば円滑な進行ができません。
しっかりとスタッフの採用と育成を行うことが大切です。
7.開業をコンサルタントに任せ切りにしている
開業時に場所やコンセプト、競合他社との差別化などについて、コンサルタントに相談するという開業医も少なくありません。
しかし、全てを任せきりにしていると、自身で決断するべき時に適切な判断を下せない恐れがあります。
経営者として従業員から信頼されるような人間になるためにも、コンサルタントに丸投げせず、伴走してもらう形でサポートを受けるといいでしょう。
歯科医院の経営を安定化させる6つのポイント
歯科医院の経営を安定化させるためには、以下6つのポイントを意識しましょう。
- 開業エリアを調査して選定する
- 歯科衛生士などの人材を確保する
- スタッフが働きやすい環境づくりをする
- 自費診療患者の割合を増やす
- 集患対策を実施して新規患者を獲得する
- 余裕のある資金計画を立てる
1.開業エリアを調査して選定する
開業エリアは、入念に調査して選定しましょう。
歯科医院の集患は、立地で左右される部分が大きく、周辺に競合の歯科医院がたくさんあれば新規開業しても患者さんを集めるのは難しいと考えられます。
広告を出したり魅力的なプロモーションを行っても、患者を取り合うだけの結果となり、効果が薄くなってしまうかもしれません。
しかし歯科医院が少ない地域なら、すでに他院に通っていたとしても待ち時間が長いなどの不満を持っている可能性があります。
世帯数や人口比率、その地域の年齢層などを調査し、需要があると判断できる場所での開業が望ましいです。
2.歯科衛生士などの人材を確保する
歯科医院を開業しても、一人で運営していくことは不可能なため、歯科衛生士などの人材を確保しましょう。
十分な数のスタッフがいなければ円滑に診療できず、顧客満足度の低下につながります。
近年、歯科衛生士の人材不足に悩む歯科医院は増えており、新卒の歯科衛生士の数に対して求人の数の方が多いというデータもあります。
全国歯科衛生士教育協議会の調査によると、2023年の新卒歯科衛生士の求人倍率は23.3倍で圧倒的な売り手市場となっています。
歯科衛生士は国家資格を必要とする職業なので、歯科助手と比較してできる業務も多いため貴重な人材です。
自院の魅力をアピールして、少しでも多くの応募が集まるように努めましょう。
参照:歯科衛生士教育に関する現状調査の報告|全国歯科衛生士教育協議会
3.スタッフが働きやすい環境づくりをする
スタッフが働きやすい環境づくりをして、モチベーションを高めたり離職を防いだりすることも重要です。
スタッフが本来の力を発揮するためには、正しい休養を与えて適切な労働時間で働けるように環境を整備しましょう。
歯科衛生士は結婚や出産を機に退職したり育児休暇に入る人も多く、労働者が不足して長時間労働が当たり前の激務になるクリニックもあります。
労働環境が劣悪だと離職率が高くなってしまい、せっかく確保できた歯科衛生士も辞めてしまって人員不足に悩みかねません。
歯科衛生士は売り手市場であることからも、転職へのハードルが低いため不満を感じたらすぐに辞めてしまう恐れもあります。
こうした事態を未然に防ぐためにも、働きやすい労働環境を整えて、スタッフが働きやすい環境を作りましょう。
4.自費診療患者の割合を増やす
歯科医院の経営を安定させるには、保険診療患者だけでなく自費診療患者の割合を増やすことも大切です。
自費診療の患者の割合が増えていけば、収入を増やしていけます。対応できる診療の幅も広がり、顧客満足度の向上にもつながります。
保険診療では不安だという方にも自費診療で理想的な治療ができれば、良好な予後が期待できます。
被せものも金属ではなくセラミックが可能になるので、見た目を気にする人にとっても嬉しい選択肢となります。
自院の収入面でも、患者の満足度の面でもメリットがあるといえるでしょう。
5.集患対策を実施して新規患者を獲得する
開業後、一定期間が経過すれば患者が定着し経営は安定してきますが、新規患者の獲得も怠ってはいけません。
患者は治療が終わったら通院もしなくなり、新規患者が獲得できていなければ患者は減っていく一方です。
新鮮味を常に感じさせるためにも、広告の出稿やホームページに力を入れるなど、集患対策を行いましょう。
特にホームページから予約サイトへの動線を設計しておくことは重要です。ホームページに訪れた患者がスムーズに予約できるようにしておかないと、せっかくの患者獲得チャンスを逃してしまう恐れがあります。
予約前日にメールで確認の連絡を送信できるシステムを導入することで、予約キャンセルや予約忘れ防止にも有効です。
6.余裕のある資金計画を立てる
余裕のある資金計画を立てることも、経営を安定させるポイントの一つです。
開業月の診療報酬は、診療月の2ヶ月後に入金されるため、開業直後は3ヶ月分以上の運転資金を用意しておく必要があります。
また、開業直後は備品の経費や人件費などで予想以上にコストがかかったりするため、資金が不足する恐れもあります。
どれだけ入念に計画を立てていても、必ずその通りに運用できるわけではないため、余裕のある資金計画を立てましょう。
歯科医院の開業で失敗しないための必要なスキル
開業医として安定した経営を行うためには、さまざまなスキルが求められます。
歯科医院の開業で失敗しないために必要なスキルは、以下の5つです。
- 治療技術
- マネジメント力
- コミュニケーション能力
- 保険制度に関する知識
- 経理・税務に関する知識
治療技術
医師としての評判を高めるために治療技術はとても重要です。
集患に必要な要素は広告やチラシ、Webサイトの検索エンジン上位表示などがありますが、口コミも非常に大きな集患効果を生みます。
Googleマップや口コミサイトなどで「腕がいい」「痛くない」「極力削らずに治療してくれる」等いい評判が広まれば、自ずと新規患者も増えていきます。
新しい治療技術を取り入れるなど、常に歯科医師としてのスキルアップを心掛けましょう。
マネジメント力
医院の経営者としてのマネジメント力が備わっていれば、安定した経営を行えます。
マネジメント力とは、経営における管理能力のこと。責任者として従業員の労働環境を整えて適切に指示を出したり、従業員一人ひとりの技量を見極めて適正なポジションに配置したりなどのスキルが必要です。
円滑に運営していくためには、患者さんにとってだけでなく従業員にとっても居心地のいい環境を作る必要があります。そのためには医院全体を見渡せる力がなくてはいけません。
コミュニケーション能力
コミュニケーション能力も、開業に失敗しないために必要なスキルです。
患者さんとのコミュニケーションと、スタッフとのコミュニケーションのどちらも非常に重要です。
歯医者が得意だという患者さんは多くありません。不安を抱えて来院する方もいるため、少しでも安心させるために丁寧なコミュニケーションを取る必要があります。
不安を取り除けるように、歯の状態や治療計画をしっかりと説明してあげましょう。
スタッフとのコミュニケーションは、円滑な診療を進めるために必要です。
スタッフが安心して働けるよう、常に自信をもって対応することが大事で、尊敬できる上司だと思って貰えるように努めましょう。
スタッフと良好な関係を築き、風通しの良い職場作りを意識しましょう。
保険制度に関する知識
保険制度に関する知識を深めておき、常にアップデートすることも、失敗しないために必要なスキルです。
診療報酬の改定は、薬価は1年ごと、その他の報酬や価格は2年ごとに行われます。その都度知識や考え方をアップデートしていく必要があります。
2018年の診療報酬改定では、「新しいニーズにも対応できる質の高い医療の実現を目指す」と明記されており、国や患者さんのニーズに応える医療を提供することが大切になるでしょう。
経理・税務に関する知識
経営者として、経理・税務に関する知識も持ち合わせておきたいです。
開業医として失敗しないためには節税対策は必須です。
高額な医療機器を購入することや、水道光熱費や家賃、経費などで多額の資金が必要です。こうした事業に関連のある出費は、経費として計上でき、節税対策になります。
高額な医療機器は、購入するか、リース契約にするかなど自院に最適な方法を見極める判断にも、経理や税務に関する知識は欠かせません。
歯科医院の開業失敗に関するよくある質問
歯科医院の開業失敗に関するよくある質問をまとめました。
立地選びのポイントを教えてください
立地選びにおいて最も重要なポイントは「経営を安定化させられる見込みがあるか」です。
「生まれ育った地元で開業して、地域に恩返しをしたい」と考えても、地元にすでに多くの歯科医院があれば、新たに開業しても上手く集患できる保証はありません。
歯科医院は一年を通して開業した数と廃業した数が同じくらいになることが多く、簡単に経営が成り立つものではないということを念頭に置いて準備を進めましょう。
歯科医院の開業に必要な時間はどれくらいですか?
歯科医院の開業に必要な時間は、立案から約1〜2年前後かかると考えておきましょう。
新築・居抜き・継承など開業方法により異なりますが、プランニングから始まり、事業計画を立てたらエリアの選定や工事に取り掛かります。
スムーズに進んでも1年程はかかるため、余裕を持って計画を進めましょう。
歯科医院を開業する際の相談先はどこですか?
歯科医院を開業する際は、知識があまりなく相談しながら進めたいという場合もあるでしょう。
そういった場合は、主に以下の相談先を検討しましょう。
- 税理士:税金に関する相談
- 経営コンサルタント:開業・経営に関する相談
- 社会保険労務士:人事・労務・雇用に関する相談
- ディーラー:機材や器具に関する相談
これらに依頼する際は、歯科医院に詳しい業者に依頼することが重要です。
税理士に関しては、税金関連の相談だけでなく、開業に関するサポートをしてくれる場合もあるため、歯科医院に強い税理士を探してみるのもいいでしょう。
歯科医院の開業に必要な資金はどれくらいですか?
歯科医院の開業には、最低でも5,000万円程度必要と言われています。
土地・建物の費用、医療機器、内装・外装工事費、広告費、運転資金などを用意しなければなりません。
開業エリアや坪数によっては、7,000万円を超える場合もあり、かなりの資金が必要となります。
自力で5,000万円貯めることは難しいため、通常は銀行などから融資を受けるのが一般的です。
まとめ:歯科医院の開業で失敗しないために徹底した準備をしよう
歯科医院を開業し、安定した経営を続けていくためにはいくつものスキルが必要です。
歯科医院は開業件数だけでなく廃業件数も多いことから、一筋縄ではいきません。
すでに開業済みの方も、開業を検討している方も、この記事を参考に開業の戦略を立てていってください。
開業で失敗しないためにも、徹底した準備をして安定した経営を実現しましょう。