病院に行く上で利用されてきた紙の健康保険証。デジタル化が進む中で、2024年に廃止され、マイナンバーカードの利用にシフトしていくことが決定しました。
マイナンバーカードと健康保険証が一体化すると、今後どう変わっていくのか気になっている方も多いでしょう。
そこで本記事では、健康保険証の種類やマイナンバーカードを健康保険証として利用するメリット・デメリット、今後予想される課題などについて解説していきます。
この記事の内容
健康保険証は大きく3種類
健康保険証には、大きく分けて以下の3つの種類があります。
- マイナンバーカードの健康保険証
- カード型の健康保険証
- 紙の健康保険証
マイナンバーカードの健康保険証
マイナンバーカードの健康保険証は、デジタル化を進めるに当たり2021年から導入され始めた健康保険証の一種です。
マイナンバーカードに搭載されているICチップ、もしくは保険証の記号番号を利用することで、オンライン上で資格情報を確認できるようになりました。
資格情報というのは、氏名や年齢、住所といったあらゆる個人情報を指します。この資格情報を確認できるオンライン資格確認を導入している病院やクリニックでは、健康保険証としてマイナンバーカードを使用できます。
カード型の健康保険証
カード型の健康保険証は最も普及率が高く、一般的な健康保険証と聞くとこのタイプを思い浮かべる人が多いでしょう。
カード型の健康保険証は、被保険者と被扶養者に発行され、加入者全員が所有していることから利便性が高いのが特徴です。
紙の健康保険証
紙の健康保険証は、カード型に比べてあまり馴染みのない人もいるでしょう。このタイプは原則として被保険者にしか発行されないため、カード型よりも利便性は低いといえるでしょう。
紙の健康保険証は2024年秋に原則廃止
デジタル庁の河野デジタル大臣が、2024年秋に紙の健康保険証を原則として廃止すると発表しました。そして健康保険証としてマイナンバーカードを利用できるように一本化することも明らかとなっています。
健康保険証とマイナンバーカードを一本化する理由として、以下の2つの事が考えられます。
- マイナンバーの普及・利用を促進するため
- 健康保険証の不正利用を防止するため
1つ目はマイナンバーの普及・利用を促進するためです。マイナンバーが導入されて以来、お金として使えるマイナポイントの還元などマイナンバーを普及させるための施策が多く行われています。
しかし、それでも依然として申請率は8割に満たないほどであり、まだまだ国民全体に浸透しているとはいえないでしょう。
2つ目の理由は、健康保険証の不正利用を防止するためです。紙やカード型の健康保険証には、顔写真が付いていないことから不正に利用されるケースが多々あり、大きな問題とされています。
そこで顔写真の付いたマイナンバーカードを健康保険証として利用することで、本人確認の精度を高められます。不正利用の撲滅とまではいかなくとも、不正利用件数の削減や抑止力にもつながるでしょう。
マイナンバーカードの健康保険証を利用するメリット|医療機関
医療機関におけるマイナンバーカードの健康保険証を利用するメリットは、主に以下の2つです。
- 業務負担が軽減されて効率化を図れる
- カードから個人の情報を閲覧できて医療の質の向上につながる
業務負担が軽減されて効率化を図れる
業務の負担が軽減されて、効率化を図れるのが大きなメリットです。
マイナンバーカードの健康保険証を利用することで、オンライン資格確認で患者の情報をオンライン上で素早く確認できます。それにより、患者に窓口で書類を持ってきてもらったり、わざわざ確認する手間がかかりません。
業務負担が軽減されるのはもちろんのこと、効率的に業務が進めば結果として待ち時間の削減にもつながるでしょう。
カードから個人の情報を閲覧できて医療の質の向上につながる
マイナンバーカードを利用することで、個人の情報をより正確に把握できるため、医療の質向上も期待できます。
初めて行く病院・クリニックでも、これまで処方された薬剤の情報やさまざまな健診の情報など自分では正確に説明できないことも医師自身がデータを確認できます。
正確な情報が適切な診断や治療法の検討に役立ち、提供できる医療の質向上に直結するでしょう。
マイナンバーカードの健康保険証を利用するメリット|患者
マイナンバーカードの健康保険証を利用する患者側のメリットは、以下の2つです。
- 転職・結婚・転居に関わらず健康保険証をそのまま使用できる
- マイナポータルの活用で確定申告の医療費控除が容易になる
転職・結婚・転居に関わらず健康保険証をそのまま使用できる
これまでの健康保険証の場合、転職や結婚、転居をすると新しい保険証を発行する必要があります。しかし、新しい健康保険証が発行され手元に届くまでには、ある程度の時間がかかってしまい、保険証を持っていない期間というのが生じていました。
マイナンバーカードの場合は、新しく加入する保険協会や保険組合への手続きさえ完了していれば、すぐに健康保険証としての使用が可能です。
国民健康保険や後期高齢者医療制度を利用している場合、保険証の定期的な更新が必要でしたが、マイナンバーカードを利用することでその手間もなくなります。
マイナポータルの活用で確定申告の医療費控除が容易になる
従来の確定申告の医療費控除を手続きするには、紙の領収書を管理しておく必要がありました。そこでマイナンバーカードを持っていると使える「マイナポータル」というサービスを使うことで、確定申告の手間を省けます。
マイナポータルを活用すれば、医療費はもちろん診療を受けた日時や病院など、申告に必要なさまざまな情報をオンライン上で管理可能です。
こういった情報はいつでも確認可能で、「e-Tax」というオンライン上で申告できるシステムと連携させれば、申告のための作業も容易に完了できます。
マイナンバーカードの健康保険証を利用するデメリット
マイナンバーカードの健康保険証の利用にも、いくつかのデメリットが存在しています。
- 個人情報の管理に注意が必要なこと
- 利用できる医療機関が現状少ないこと
まず従来の健康保険証に比べ、マイナンバーカードには含まれている個人情報が膨大で情報管理に注意が必要です。
個人情報が漏れてしまう危険性を少しでも抑えるために、下記のような安全対策をとる必要があります
- 患者側のマイナンバーカードの管理の徹底
- 医療機関もオンライン資格確認を導入
また、健康保険証としてのマイナンバーカードやオンライン資格確認システムの普及率がまだまだ低く、利用できる医療機関は多くありません。
広く普及していくまでは、かかりつけ医や初めて行く病院・クリニックには利用できるかどうか確認を取る必要があるでしょう。
オンライン資格確認システムの導入が必須
マイナンバーカードの健康保険証を利用するためには、オンライン資格確認システムの導入が必須となります。
2023年4月よりシステムの導入が原則として義務化されたのに加え、マイナンバーカードを管理するセキュリティの観点でも導入は欠かせません。
オンライン資格確認とは、マイナンバーカードのICチップ、あるいは保険証の記号番号で患者の資格情報をオンライン上で閲覧できるシステムです。
現状としてまだ広まっておらず、マイナンバーカードの健康保険証を利用したい場合は患者側が確認を取る必要があります。
これからさらにシステムが普及していけば、患者が確認する手間もなくなり、病院やクリニックもいちいち対応する手間を省けるでしょう。
紙の健康保険証が廃止による新しい課題
紙の健康保険証が廃止されることで、生じると予想されている新しい課題は主に以下の2つです。
- マイナンバーカードを持っていない人・デジタルに弱い人が取り残される
- 医療現場での負担が増加する
マイナンバーカードを持っていない人・デジタルに弱い人が取り残される
紙の健康保険証が廃止されることで、マイナンバーカードを持っていない人やデジタルに弱い年配の人などが適正な医療を受けられないのではという課題が懸念されています。
マイナンバーカードとの統合を実現するには、そういった方々からの理解を得なければなりません。
未だマイナンバーカードを所持していない人も多く、カードの紛失や個人情報の漏洩などの危険性に不安を感じているようです。今後マイナンバーカードを普及させていくには、取り残される人が出ないような対策が必要不可欠です。
医療現場での負担が増加する
また、医療現場での負担が増えるのではないかという懸念もあります。
義務化されたとはいえ、国が全額負担してくれるわけではありません。必要となるシステムの導入や運用にはある程度のコストが必要です。
また、利用期間ごとにはもともとの環境に差があり、設備が整っていない医療機関においては導入コストが大きくなる可能性もあります。
さらに、従来の健康保険証とは大きく変わってしまうため、業務フローの見直しや職員への指導による業務負担が大きくなるとも考えられます。
窓口業務においては、患者一人ひとりに対してマイナンバーカードの健康保険証について説明しなければなりません。職員への負担や患者の待ち時間の増加など、医療現場への影響は決して小さくないでしょう。
まとめ:紙の健康保険証廃止に向けてフォロー体制を整えよう
マイナンバーカードと健康保険証の一本化は、広く普及すれば医療機関と患者両方の利便性の大幅な向上が期待できます。
しかし、普及を促進していくにつれて、医療機関への負担の増加やマイナンバーカードの不所持者、デジタル弱者などフォローすべき課題も多くあります。
こうした課題感を解決するために、紙の健康保険証が廃止される前に、デジタル化やフォロー体制の構築といった準備を進めてください。