病院を運営していく上で、「どのような防災対策を行えば良いかわからない」という方はいらっしゃいませんか?
本記事では、病院における防災対策の必要性や具体的な対策方法、事前に確認・決定すべきポイントなどについて解説していきます。
いつ来るか分からない万が一に備えるために、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の内容
病院における防災対策の必要性
言わずもがな、病院において防災対策は必要不可欠です。
病院には、入院患者や外来患者など身体が弱っている人が集まっており、健康な人と比べて自由に動き回ることはできません。中には手術中の患者や重病人など、危険な状態の患者もいるでしょう。
そのような場所である病院に災害が直面した場合、簡単に逃げることはできず、病院にい続けるしかないこともあります。そのため、災害による危険な状況を乗り切り、患者を守るためには、病院の防災対策を徹底しておくことが重要なのです。
また病院は、災害によって負傷した地域住民への治療や支援という、社会的にも重要な役割も担っています。しかし病院の防災対策が不十分だと、発生した被害に対応しきれず、医療機関としての機能も失いかねません。そうなれば、病院内の患者を守れないだけでなく、外で負傷した人達を助けることもできないでしょう。
病院がしておくべき防災対策
病院がしておくべき防災対策は、主に以下の5つです。
- スタッフ同士の連絡手段を確認しておく
- マニュアルを作成しておく
- 定期的に避難訓練を行う
- 非常用の電源を用意しておく
- 最低限必要な物を備蓄しておく
スタッフ同士の連絡手段を確認しておく
災害時には病院内が混乱するため、スタッフ同士が連携できるように連絡手段を確認しておきましょう。
電話番号やメールはもちろんですが、LINEなどでグループチャットを作成しておくと重宝します。ただ、災害時はインターネットや電話回線が繋がらなくなる場合があり、そういった状況でも連絡できる手段を考えておきましょう。
例えば、電話やメールが使えない時でも使用できる無線機や衛星電話などの連絡手段を用意しておくと、なお安心です。
マニュアルを作成しておく
災害発生時にスタッフがどう動くのかを明確にしたマニュアルを作成しておき、それを従業員間で共有しておくと、混乱を最小限に抑えられます。マニュアルでスタッフの役割を分担しておき、それに沿って行動することで、適切な対応が可能になるでしょう。
災害時の役割分担の例は、主に以下の通りです。
- 建物内設備の状況を確認する人
- 備蓄の確認をする人
- 患者の安全を確保する人
- 病院内のスタッフおよび関係者に連絡を取る人など
また災害時の対応方法は、地震や火災、土砂災害など災害の種類によって変わります。あらかじめ、生じる可能性のある災害ごとにいくつかのマニュアルを用意しておきましょう。
定期的に避難訓練を行う
災害時によりスムーズに対応するためには、実際にスタッフと患者が参加する定期的な避難訓練が重要です。スタッフ1人ひとりの動きや患者の運び方、避難経路などを確認し、改善点を見つけ、ブラッシュアップしていきましょう。
現在の消防法では、病院は年2回以上の避難訓練が義務化されており、その内1回は夜間に行うことが努力義務とされています。ただ、災害はいつ起こるか分からないので、どのような状況にも対応できる能力を訓練しなければなりません。そのため、時間帯だけでなく、天候や災害の種類別に分けて、何度も訓練しておく必要があるでしょう。
非常用の電源を用意しておく
万が一停電してしまうと、医療機器が停止して多くの患者の命が危険にさらされます。そのため、突然の停電にも常に対応できるように非常用の電源を用意しておきましょう。
発電機やバッテリー式の非常用電源など、ライフラインが復旧するまで耐えられるような備えをしてください。病院においては、停電によって医療機器が停止し患者の命が危険にさらされるのが、大きなリスクです。そのため、医療機器にも電気を供給できる「特別非常電源」や「無停電非常電源」の導入がおすすめです。
また停電時には医療機器だけでなく、その他の設備も同様に使えなくなります。非常用の電源があったとしても、病院内すべての電気はまかなえないので、優先して電気を供給する設備を事前に決めておきましょう。
最低限必要な物を備蓄しておく
災害時の混乱の中で、患者の安全を確保し被災者の救援を行うには、最低限の物資の備蓄は必要不可欠です。必要な備蓄の例は、主に以下の表の通りです。
具体例 | |
---|---|
生活用品 | 食料、水、防寒具、毛布、タオル、簡易トイレなど |
医療用品 | 包帯、消毒薬、注射器、医療用手袋、酸素、医薬品など |
通信・工具類 | 非常用電源、無線機、懐中電灯、ペンチやバールなどの工具など |
生活用品はもちろんですが、患者や被災者を助けるための医療用品も用意しておきましょう。応急処置に必要なものや医薬品類は普段から医療機関に備えがあるかとは思いますが、災害用にも重宝されているものは別で備えておきましょう。
ただ、備品を管理する際には、備品の劣化に注意が必要です。劣化によって食料が食べられなかったり、医薬品の効き目が弱くなっていたりしては意味がありません。そのため。ある程度の期間を定めて、定期的に備品を入れ替えることで常に新しい状態を保っておきましょう。
病院の防災対策で事前に確認・決定しておくべきポイント
いざ災害に直面した時に、まったく混乱せず動ける人はほとんどいないでしょう。混乱を最小限に抑えて対応するためには、事前の準備が大切です。ここでは、病院の防災対策として事前に確認・決定しておくべきポイントを解説していきます。
事前に確認・決定しておくべきポイントは、それぞれ以下の通りです。
確認しておくべきポイント
- 食料や水は何日分あるか
- 燃料は何日分あるか
- 非常用電源は何日分確保できているか
- 医療資材や機材の補給はあるのか
- 燃料や酸素の補給はあるのかなど
決定しておくべきポイント
- 災害時に冷暖房用のエネルギーを使うかどうか
- 電気は何を優先して使うのか
- 水は何を優先して使うのか
- それぞれのスタッフの役割
- 病院内外への避難経路など
生活用品や医療用品、非常用電源などの備品を何日分確保できているのかをよく確認しておきましょう。被害の大きさによっては、数日間を備蓄のみで過ごすようなケースがあるかもしれません。そのような状況に陥った場合には、備蓄を消費するペースを検討しなければならないので、事前の把握は重要になります。
また災害時には、電気や水といった資源が限られるので、事前に何に優先して資源を使うのかを決定しておきましょう。被災した状況では、患者やスタッフ含め全員が混乱しているので、あらかじめ冷静な状態の時に決めておくことが重要です。他にもスタッフの役割分担や避難経路など、すぐ行動に移せるように、決められることは可能な限り決めておきましょう。
参考:災害時の病院対応について
災害時における医療機関の役割分担
ここでは、災害時における医療機関の役割分担について解説していきます。病院は以下の3つのような役割に分けられ、被災者の救護にあたります。
- 災害拠点病院
- 災害拠点連携病院
- 災害医療支援病院
災害拠点病院
災害拠点病院は、災害発生時に地域医療の中心として機能する医療機関です。主に重傷者を受け入れて、収容・治療を行います。
ヘリコプターによる搬送が可能な設備や、災害による負傷者に24時間対応できる体制といった環境が整っていないといけません。またスタッフの能力も高く、ヘリコプターで医師や医療救護班を派遣したりと、緊急時の高い対応力を備えています。
災害拠点連携病院
災害拠点連携病院は、比較的症状の重くない患者や、治療を終えて安定した重傷患者を収容し、治療を行う医療機関です。
名前の通り災害拠点病院と密接に連携し、救護にあたります。例えば、災害拠点病院で治療を受けて容態が安定した患者を、災害拠点連携病院が引き継ぎ治療します。
この他にも医療スタッフの派遣や物資の支援、避難の受け入れなど、他の医療機関へのサポートも大きな役割です。
災害医療支援病院
災害拠点病院や災害拠点連携病院は、設備や体制などの基準を満たし、厚生労働省より指定された医療機関です。そして、この2つを除く全ての病院は災害医療支援病院という役割を担っています。
災害医療支援病院は、災害拠点病院の支援が大きな目的であり、具体的には以下のような機能が求められます。
- 災害拠点病院に患者が集中しすぎないように、患者を受け入れ分散させる
- 連携している災害拠点病院が被災した場合、代わりとして患者を受け入れる
- 人手が足りない災害拠点病院に医師を派遣する
このように災害時には多くの医療機関が連携し、それぞれの役割を担うことで、よりスムーズで安全な救護を実現しているのです。
災害が発生したときに病院ですべきことは?
災害が発生したときに病院がすべきことは、大きく分けて以下の3つです。
- 入院患者の安全を確保する
- 病院内の設備や備蓄状況の確認
- 病院外で負傷した人への治療
この3つに関して、優先順位も含めて解説していきます。
入院患者の安全を確保する
災害発生時に最優先にすべきは、入院患者の安全を確保することです。特に、重症の患者や自力で避難できない人の安全を優先しましょう。病気の重症度や年齢などの情報を加味して順番を決めなければならないため、あらかじめ優先順位リストを作成しておくと安心です。
また、避難中に急変や停電のようなイレギュラーなケースにも混乱しないように、あらかじめ細かく確認しておきましょう。
病院内の設備や備蓄状況の確認
入院患者の安全が確保できたら、次は病院内の設備や備品状況の確認です。「故障した設備がないか」や「備品は使用可能な状態か」などを確認します。
例えば、洪水が発生し病院に水が浸入してきたとします。その場合、設備が水浸しで故障したり、備品が水に沈んでしまったりと病院内でも被害が発生してしまいます。そのため、患者の安全を確保した後は、なるべく早く設備の被害状況や確保できた備品の量を把握しましょう。
病院外で負傷した人への治療
病院内の安全確保や状況確認を終えたら、病院外で被災し負傷した人への治療に当たります。まずは診察や治療専用のスペースを設置したり、スタッフの役割分担を決めたりと受け入れ体制を整えましょう。
準備が完了し患者を受け入れたら、始めにトリアージする必要があります。トリアージとは、負傷者を重傷順に色分けして治療の優先順位を決めることです。この時のトリアージ基準を病院内で統一しておくことで、スムーズに治療に移行できます。基本的には重傷者から軽傷者の順に治療をしていきます。
また、他の医療機関と情報を共有し合い、患者の分散や相互支援を徹底することで、1人でも多くの患者を治療できるでしょう。
まとめ:病院の防災対策は事前に徹底しておこう
本記事では、ここまで病院における防災対策の必要性や具体的な対策方法、事前に確認・決定すべきポイントなどについて解説してきました。
災害発生時は、患者もスタッフも混乱し冷静な判断が難しくなります。そのような状況下でも、適切に行動して一人でも多く助けるために、事前のマニュアル作成や避難訓練などの準備を徹底しましょう。
万が一の災害に備えるために、ぜひこの記事を参考にしてみてください。