一人でクリニックを開業するのは不安でも「親しい仲間と一緒なら開業してみたい」と考える医師もいるのではないでしょうか。
クリニックを複数人の医師で経営するのは多くのメリットがある反面、デメリットも少なくありません。
共同でクリニック経営を検討する際は、後々トラブルにならないようデメリットもしっかり把握しておきましょう。
そこでこの記事では、クリニックを共同経営するメリット・デメリットを紹介します。
この記事の内容
クリニックは共同経営できる
結論として、クリニックの共同経営は可能です。
役割や決定権、報酬などをあらかじめ決めておけば、複数人の医師が協力してクリニックを経営できます。
ただし、クリニックを共同経営する場合、医療法上の管理者、つまり院長になれるのは一人だけです。
賃貸借契約や通帳作成、医療機器の購入などは、開設管理者の名前を用いて手続きを行います。
それでも、報酬や税務申告を共同経営する人数で割るなら、実質的にクリニックの共同経営は可能です。
クリニックのよくある共同経営のパターン
クリニックの共同経営パターンを大別すると、以下の組み合わせが主流です。
- 同僚や先輩後輩などの医師同士
- 医師同士の夫婦
- 医師同士の兄弟や姉妹
医師同士は、共同経営する前までは強固な信頼関係があっても、経営はシビアですので仕事や金銭面で意見の食い違いが生じる可能性もあります。その結果、仲違いして長年の関係が壊れてしまうケースは少なくありません。できれば専門科目が異なり、お互いの領域には踏み込まない関係が望ましいでしょう。
夫婦で開業すれば、家庭の事情にあわせた働き方ができるため、お互いが理想とするワークライフバランスを実現しやすくなります。ただし、一緒に過ごす時間が長くなるため、ストレスを感じてしまう場合もあるでしょう。休憩スペースを分けるといった工夫が必要になるかもしれません。
医師同士の兄弟や姉妹は、比較的スムーズに共同経営が進みやすい組み合わせです。家族をパートナーにした方が、親族以外の場合より対立が起こりにくく、意思決定がしやすい傾向にあります。
クリニックの共同経営が増えている理由
近年日本では、複数人のドクターによる共同経営が増加の傾向にあります。その理由として、日本の財政悪化が挙げられます。
現在、国の医療費全体における4割が税金で、その中の5割が病院に使用されています。税収入の大部分を担っている生産労働人口は、将来的に現在の3分の1は減少する見込みです。
医療に投入できる税金が大幅に減少すると、病院や病床の規模を縮小せざるを得ません。その結果、病院に籍を置けなくなる医師がまとまって開業するケースが増えたと考えられます。
クリニックを共同経営する4つのメリット
ここからは、クリニックを複数医師で経営するメリットについてみていきましょう。
- 医師の確保ができる
- 売上アップなど金銭面の利点がある
- 経営不能の危険性を避けられる
- 客観性を得られる
医師の確保ができる
共同経営者が医師であれば、人材である医師の確保ができるのがメリットです。
紹介会社を通じて医師を採用した場合、年収の20~30%程度の紹介料を要するため、300万〜400万円を超える採用コストがかかるケースも珍しくありません。
一方、共同経営であれば医師を紹介してもらう必要がなくなるため、採用コストを軽減できます。
売上アップなど金銭面の利点がある
クリニックの共同経営では、医院あたりの売上がアップする可能性が高いです。
医師が二人いる場合、単純計算で2倍の患者を診れるため、診療回転率が大幅に上がります。また、診療時間の拡大も可能になり、夜間診療や休日診療の導入も検討できるでしょう。
経営不能の危険性を避けられる
経営不能の危険性を避けられる点も、クリニック共同経営のメリットです。
一人だけで経営している場合、体調不良や病気などが原因で経営を続けるのが難しくなる可能性もあります。
二人で医院開業をすると、たとえ一人が診療できなくなっても、もう一人が経営を続けられるため、休診による収入減のリスクを回避できます。
客観性を得られる
同じ経営者であるパートナーの意見を参考にして客観的な判断ができるのも、共同経営のメリットといえます。
重要な経営判断が求められる場面で、対等な立場で相談できるパートナーが身近にいるのはとても心強いです。
共同経営者の存在によって、経営者の多くが感じる孤独感に悩む機会も減ると期待できます。
クリニックを共同経営する4つのデメリット
次に、複数医師で医院を経営するデメリットもみていきましょう。
- 人件費が高額になる
- 報酬の分配問題が起こる
- アンバランスな仕事配分に不満が出る
- 経営方針の食い違いが生まれる恐れがある
人件費が高額になる
医師が複数人いる以上、当然ですが相当な人件費がかかります。
単独経営であれば、もし患者数が少なくても院長の収入にしか影響はありません。
共同経営の場合、院長にならなかった共同経営者は雇用されている医師となります。雇用されている医師には、毎月一定の報酬を支払う必要があるため、支出が増えるのです。
ただし、共同経営者から報酬減額の合意が得られれば、人件費が高額になって経営難に陥るリスクを軽減できます。
報酬の分配問題が起こる
クリニックの共同経営では、報酬の分配問題が起こり得るのもデメリットです。
医院に複数医師がいる場合、それぞれの貢献度を正確にはかり、報酬に反映させるのは簡単ではありません。
たとえば二人で医院を経営する場合、振り込まれた報酬を2分の1に分けると決めたとします。
明らかに一人の診療時間が長い場合、報酬が2分の1では貢献度との割に合わないと感じられるでしょう。
しかし、もう一人が医院への貢献度は診療時間の長さではないと主張すれば、共同経営者の間に亀裂が生じるかもしれません。
このように、貢献度に対する考え方の相違によって、報酬配分でトラブルが起きる可能性もあるのです。
アンバランスな仕事配分に不満が出る
報酬配分と同様に、仕事量のバランスが悪くなると不満が出やすくなります。
特に患者からの人気が偏っている場合「自分だけ休暇が取れない……」「自分の方が残業が多い……」という状況になり、共同経営者同士の関係悪化につながります。
このような事態に陥らないためにも、事前に共同経営契約書で仕事配分の条件を交わしておくのが望ましいでしょう。
経営方針の食い違いが生まれる恐れがある
どれだけ親しい相手でも、共同経営でクリニックを経営する場合、方針の違いが問題になる可能性はゼロではありません。
意見のぶつかり合いは経営面での意思決定を遅らせ、最悪の場合、医院内の分裂に至るおそれもあります。
共同経営をスムーズに進めるために、パートナーと良好な関係を保ち続ける必要があります。
そのためには、相手の経営ビジョンや価値観などをしっかりと共有し、強固なパートナーシップづくりを目指しましょう。
まとめ:クリニックの共同経営はコミュニケーションを取りながら問題を解消しよう
複数医師によるクリニックの共同経営には、メリットとデメリットの両方があります。
特に、医院の開業直後は何かと慌ただしい日々を送りますが、それでも密にコミュニケーションを取りながら、問題を共有・解消していかなければなりません。
報酬や仕事の配分など、トラブルが起こりやすい部分は事前によく相談し、書面に残しておくのが重要です。
本記事の内容を参考に、クリニックの共同経営におけるメリット・デメリットを念頭において、パートナーと何度も打ち合わせを重ねてから経営を実行しましょう。