高齢化の進行や健康志向の高まりに伴い、昨今は整骨院の数が増加傾向にあります。業界全体の需要が高まったことで、近年では整骨院のM&Aが活発になっているのが現状です。
本記事では、整骨院業界の動向や事例をふまえながらM&Aについて徹底解説していきます。整骨院のM&Aに興味がある方や買収・売却を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください!
この記事の内容
整骨院業界の現状とは?昨今の市場動向を解説
ここでは、整骨院業界の現状について以下の項目に分けて解説していきます。
- 現状①:整骨院の供給過多
- 現状②:周辺業種との競争が激化
- 現状③:不正請求が多発
現状①:整骨院の供給過多
1998年に柔道整復師養成施設の開設に関する規制が緩和されたことを皮切りに、柔道整復師の数が増加し、それに伴って整骨院の数も増加しています。
全国にある整骨院は2008年時点では34,889軒でしたが、2018年には50,077軒にまで増加しました。つまり10年で1.4倍以上の数になったのです。
参照:平成30年衛生行政報告例 結果の概要(就業あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師及び施術所)|厚生労働省
これにより、需要に対して整骨院の数が供給過多に陥ってしまっています。
現状②:周辺業種との競争が激化
整骨院の数が増加したことによる供給過多は、周辺業種との競争が激化する原因にもなっています。
同業だけでなく、整体院やマッサージサロンなどの類似したサービスを提供する業種とも顧客を取り合う形になっているのが現状です。
現状③:不正請求が多発
上記のような現状の中で療養費の不正請求が多発し、社会的な問題となりました。
本来であれば保険適用外のはずの施術を保険適用内に偽装し、不正請求するというケースが増加したのです。
この事態に対して国が厳格化・厳罰化を進めたことにより、不正を行っていない整骨院にもしわ寄せが来ているのが現状です。
業界全体の競争激化や保険請求の厳格化などが相まって整骨院の経営が難しくなっています。
こういった動向の中で、同業種のみならず異業種とのM&Aが増加傾向にあります。
整骨院のM&Aの相場はいくら?
整骨院のM&Aの相場は創業年数や地域、売上など様々な要素によって左右されます。
調査の結果、一般的には数十万円〜500万円程度で売買が行われるケースが多いようです。ただ立地がよく集客しやすい店舗やリピート率が高い店舗だと相場が1,000万円前後まで上昇します。
有資格者が多く在籍していたり、複数の店舗を経営している整骨院の場合、さらに相場が上昇し億単位で売買が行われることもあるようです。
整骨院でM&Aをするメリット
整骨院でM&Aをするメリットは、売り手側と買い手側に分けて以下の通りです。
売り手側のメリット | 買い手側のメリット |
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経営の安定化や事業の成長を図れる 経営資源をより有望な店舗や事業に集中できる 倒産を回避し従業員を守れる 債務整理をスムーズにしてソフトランディングできる 売却益を元手に新たなスタートを切れる |
既存事業の拡大や新規事業の開発ができる 経営の効率化やブランドの強化を図れる |
ここでは、それぞれの項目に関してひとつずつ解説していきます。
売り手側のメリット
経営の安定化や事業の成長を図れる
M&Aにより大きな資金力を有する企業グループに入ることで、経営の安定化や事業の成長を図れます。
大きな企業グループには資金力だけでなく、これまでに蓄積された知名度や信用、ノウハウなどがあります。
傘下に加われば、グループならではの力を活用し経営を安定させたり、事業をさらに大きく成長させることも可能でしょう。
経営資源をより有望な店舗や事業に集中できる
複数の店舗や事業を展開している場合、売却することで経営資源をより有望な店舗や事業に集中させられます。
売却によってまとまった利益を得られるため、経営の基盤を安定させると共に、将来性のある店舗や事業をさらなる成長に繋げることもできるでしょう。
倒産を回避し従業員を守れる
大きな企業グループの傘下に加わることは、傾いた経営を立て直し、従業員の生活を守ることにも直結します。
当然ですが、会社が倒産すれば雇っている従業員は路頭に迷うことになるでしょう。
豊富な資金を有している企業に買収されることで倒産を回避し、従業員に大きな負担をかけるような事態を未然に防げます。
債務整理をスムーズにしてソフトランディングできる
会社を売却することで、債務整理をスムーズにしてソフトランディングが可能になります。
ソフトランディングとは、景気が過熱している状態から緩やかに減速させ、急激な景気の後退や混乱を避けて安定成長に移行させることです。
会社の経営が傾き、倒産手続きを行う際に事業としてまとめて売却してしまうことで、資産を精算するよりも多くの資金を得ることができます。これにより債務整理をスムーズに進め、ソフトランディングに繋げられます。
売却益を元手に新たなスタートを切れる
M&Aで得た売却益を元手にして、人生の新たなスタートを切ることもできます。
まとまった資金を使って新たな事業を始めたり、逆に引退してゆったりとした老後生活を送るといった選択肢もあります。それぞれの展望に合わせたスタートを切るきっかけになるでしょう。
買い手側のメリット
既存事業の拡大や新規事業の開発ができる
自社と類似の事業を展開している会社を買収することで、既存事業の拡大を図れます。
新規のエリアに拡大するとなると、施設や人材の確保、営業などかなりの労力が必要となります。しかし買収によって事業拡大すれば、そういった労力をかけることなくスムーズに拡大できるでしょう。
また、自社と異なる事業を展開している会社を買収すれば、新規事業の開発にも乗り出せます。買収によって事業ごと獲得することで、必要な人材や設備もまとめて確保できます。
地域密着型の事業の場合だと、そのエリアに馴染むのに時間がかかりますが、顧客や周囲からの信用もそのまま引き継ぐことが可能です。
経営の効率化やブランドの強化を図れる
同業の会社を買収して事業エリアの拡大を図ると共に、経営資源を統合することで経営を効率化させられます。エリアや店舗の将来性・採算性を踏まえて、経営資源を適切に配分できれば、無駄な支出を最低限に抑えられるでしょう。
また知名度や信用のある会社を買収した場合、宣伝効果も期待できるので自社ブランドの強化にもつながるでしょう。
整骨院でM&Aをするデメリット
整骨院でM&Aをするデメリットは主に以下の2つです。
- M&Aを進めるには、煩雑な準備が必要となる
- 従業員や取引先といった関係者に対して説明責任が伴う
M&Aを進めるには、煩雑な準備が必要となる
M&Aを進めるためには、条件の設定や買収・売却相手の選定、市場動向の調査といった煩雑な準備が必要となります。
M&Aは成功すれば様々なメリットを享受できる反面、それ相応の時間と労力がかかるのが実情です。成功させるためには、時間をかけて入念に準備を整えましょう。
従業員や取引先といった関係者に対して説明責任が伴う
M&Aを行う際には、従業員や取引先などの関係者に対して説明責任が伴います。「雇用形態や給与が変わってしまうのか」「取引を継続できるのか」など、今後何が変わって何が変わらないのかを詳しく説明しなければなりません。
説明が不十分だと、M&Aを行った後に従業員からの反発が生じたり、取引が中止になるといったトラブルが起こりかねません。
このようなデメリットを回避するためには、次からご紹介する事例からM&Aのコツを学んで事前に対策をしておきましょう。
整骨院のM&Aの事例を6つ紹介
ここでは、整骨院のM&Aの事例を6つ紹介していきます。先ほどご紹介したようなデメリットを最小限に抑えるために、事例からM&Aのコツを学びましょう。
事例①GENKIDO×EXPAND
施行日 | 2018年12月 |
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買収(売却)先 | 買収先:株式会社GENKIDO 売却先:株式会社EXPAND |
目的 | 四国エリアに進出 |
株式会社GENKIDOは、2018年12月に株式会社EXPANDの全株式を買収し子会社としました。
GENKIDOは、全国に整骨院や鍼灸院を展開している企業で、他にもボディケアを行うサロンやアジアンスパも展開しています。
対してEXPANDは「坂口鍼灸院グループ」という鍼灸整骨院を徳島県と兵庫県に展開している企業です。
このM&Aが行われたことでGENKIDOは四国エリアへ進出し、成長戦略を加速させていきました。
参考:https://www.genkido-s.com/news/detail/101/
事例②ケイズグループ×ケア・トラスト、ルーツアイランズ
施行日 | 2019年8月 |
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買収(売却)先 | 買収先:ケイズグループ 売却先:ケア・トラスト、ルーツアイランズ |
目的 | 事業を承継し、経営の安定化 |
2019年8月に、ケイズグループはケア・トラストの整骨院事業の一部とルーツアイランズの鍼灸整骨院事業を買収し譲り受けました。
買収先であるケイズグループは鍼灸整骨院の店舗運営や保険請求の代行、人材紹介など幅広く事業を展開している企業です。
一方で、売却先であるケア・トラストは整骨院の運営と治療機器の販売を行っている企業で、ルーツアイランズは鍼灸整骨院と美容鍼灸院の運営を行っている企業です。
M&Aは財務基盤の健全化を図るための事業整理を目的とし、経営を安定させるために行われました。
参考:https://keizgroup.jp/news/detail.html?id=112
事例③ケイズグループ×Pflaster
施行日 | 2020年4月 |
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買収(売却)先 | 買収先:ケイズグループ 売却先:Pflaster |
目的 | グループ内に新しい会社を設立し運営方針はそのままに事業を強化 |
2020年4月に、ケイズグループはPflasterのトレーナー事業を譲り受けました。
株式会社Pflasterのトレーナー事業では、ダンスグループや実業団、プロスポーツの現場などにトレーナーを派遣したり、怪我やメンタル面へのサポートなどの多角的なケアを行っています。
事業継承は、サービス内容や運営方針はそのままに事業の強化と安定化を図るため行われました。
参考:https://keizgroup.jp/news/detail.html?id=61
事例④アトラ×ミツフジ
施行日 | 2016年8月 |
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買収(売却)先 | 買収先:アトラ 売却先:ミツフジ |
目的 | loT用ウェア・電子デバイスを共同開発 新製品の開発・新サービスを販売 |
2016年8月にアトラはミツフジからの第三者割当増資を引き受け、資本業務提携を結びました。
アトラはフィットネスジムの運営や整骨院のフランチャイズ、保険請求代行などの事業を行っている企業です。
対してミツフジは、銀メッキ導電繊維「AGposs」を開発しウェアラブルloT製品への応用を行ったり、ウェアラブルloTソリューションである「hamon」の開発や提供を行っている企業です。
この2つの企業は業種が大きく異なりますが、loT用ウェアや電子デバイスの共同開発、現場の需要を反映させた新たな製品やサービスの販売を目的としてM&Aが行われました。
参考:https://www.mitsufuji.co.jp/information/20160805/
事例⑤aprecio×MJG
施行日 | 2020年5月 |
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買収(売却)先 | 買収先:aprecio 売却先:MJG |
目的 | MJGの技術を活かした新規事業の開発を行い、経営基盤を強化 |
2020年5月、aprecioはMJGの整骨院・整体院の一部店舗と研修所1軒の事業を譲り受けました。
aprecioはMCJを親会社として持っており、複合カフェの運営やフランチャイズに加えて、フィットネスジムやタイ古式マッサージの運営など幅広く展開している企業です。
一方、MJGは接骨院や鍼灸院、整体サロンをおよそ180店舗運営している企業で、2020年4月に破産手続きを開始していました。
このM&Aはaprecioの新規事業開発にMJGの技術を活かし、収益の安定化と経営基盤の強化を図るために行われました。
参考:https://pdf.irpocket.com/C6670/yCGV/xVMh/r4AY.pdf
事例⑥令和柔整鍼灸師会×ホープ接骨師会
施行日 | 2021年2月 |
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買収(売却)先 | 買収先:株式会社カスケード東京 売却先:株式会社ホープ接骨師会 |
目的 | ホープ接骨師会のサービスを引き継いで運営 |
2021年2月、株式会社カスケード東京はホープ接骨師会の事業を買収し譲り受けました。
100%子会社である令和柔整鍼灸師会は、柔道整復師や鍼灸師の人たちの開業支援に加え、保険請求の代行やコンサルティングといった経営をサポートするサービスを行っている企業です。
売却先であるホープ接骨師会は、元代表であった人物の資金流用が明るみになり問題となったことで2021年1月に破産手続きを開始していました。
このM&Aの目的は、ホープ接骨師会が行っていたサービスを令和柔整鍼灸師会が引き取るためと発表されています。
参考:https://cascade-tokyo.com/info/1181/
整骨院のM&Aをするなら仲介サイトの利用がおすすめ
整骨院のM&Aを円滑に進めるためには、仲介サイトの利用がおすすめです。ここでは、以下の3つのサイトを紹介していきます。
- 物語工房
- BATONZ
- CORPORATE ADVISERS CREAS
物語工房
参照:物語工房
物語工房は買い手側と売り手側の両方が使いやすい仕様になっており、手数料0円で利用できるM&A仲介サイトです。
これまでM&A業界で問題視されていた料金面や企業の質を改善し、気軽に利用しやすいサイトに設計されています。
BATONZ
参照:BATONZ
BATONZは22万以上の買い手が登録しているので、それぞれに合った会社・事業の引継先を見つけられます。
経験豊富な専門スタッフがM&Aを通してサポートしてくれるため、不安や困りごとのある方でも安心して利用できるのが魅力です。
CORPORATE ADVISERS CREAS
CORPORATE ADVISERS CREASは、業種やエリアなどから条件を絞りM&Aの相手を探せる仲介サイトです。
売上高や従業員の数、設備など、店舗の情報を詳しく見て相手を選べるため、M&Aを進めるイメージを膨らませやすいのが特徴です。
まとめ:整骨院業界の動向を鑑みて、M&Aを検討しよう
本記事では、ここまで整骨院業界の現状やM&Aのメリット・デメリット、整骨院のM&A事例について解説してきました。
整骨院のM&Aには、経営の安定化や事業の拡大など多くのメリットがあります。しかしその一方で、煩雑な準備に膨大な時間と労力が必要となります。
M&Aのメリットを最大限まで享受するためにも、整骨院業界の動向を十分に鑑みてM&Aを検討しましょう。