医師として日々患者の治療にあたる中で、突然の訴訟やトラブルに巻き込まれるリスクは誰にでも存在します。医師賠償責任保険は、常にリスクを背負う医師の万が一に備える保険です。
本記事では、医師賠償責任保険の概要や重要性、保険の種類などを解説していきます。
医師賠償責任保険に関してよくある疑問にもお答えしているので、ぜひ参考にしてください。
この記事の内容
医師賠償責任保険は必要か?
結論から述べると、医師賠償責任保険への加入への必要性は高いといえます。
日々診療や治療を行う医療現場において、医師は患者に対して常に高い責任を伴います。その中で、医師が予期せぬ事態に直面し患者から訴訟を起こされるというケースが、毎年発生しています。医事関係訴訟事件統計によると、令和5年(2023年)で医事関係訴訟事件が裁判所に提出された件数は610件でした。
また、医療訴訟の内容は多岐に渡り、また日々の診療に忙殺されている医者が裁判になると、個人では対応が難しくなっているのが現状です。相手側から高額な損害賠償を請求されてしまった場合、経済的な負担だけでなく、医師としての信頼も揺らいでしまうでしょう。
万が一の訴訟に備えて、医師賠償責任保険へ加入することが推奨されます。
医師賠償責任保険とは
医師賠償責任保険とは、医師が患者側から損害賠償を請求された場合に、経済的な負担を軽減するための保険です。
医療現場では、人命に関わる医療行為を行う中で、100%ミスやトラブルを避け続けるのは困難です。こういったリスクを抱えながら、安心して医師としての仕事を遂行するために、医師賠償責任保険は重要な備えと言えるでしょう。
患者からのクレームから医療過誤まで幅広く対応してくれるので、ぜひ加入を検討してみてください。
医師賠償責任保険に加入する重要性
ここでは、医師賠償責任保険に加入する重要性について解説していきます。この保険が重要だと言えるポイントは、主に以下の4つです。
- 実際に医療訴訟が毎年発生している
- 賠償金額が高額になってきている
- どの診療科においても訴訟リスクが高い
- 医師個人に対しての訴訟が増加している
医師賠償責任保険への加入を検討する際に、ぜひ参考にしてください。
実際に医療訴訟が毎年発生している
医療訴訟はここ最近では横ばいまたは減少しているものの、医事関係訴訟事件統計によると、ここ10年で毎年600~800件の医事関係訴訟事件が裁判所に提出されています。
相対的に見ると、毎年600~800件の医事関係訴訟事件は、人によっては少ないと感じるかもしれません。一方訴訟になると、弁護士費用や賠償金など多額の費用がかかったり、裁判に時間を割いたりする必要があるため、十分な補償を備えた保険が心強い味方となるでしょう。
賠償金額が高額になってきている
賠償金額の高額化も進んでおり、数千万〜数億円の賠償金を請求されるケースも実際に存在しています。特に、後遺症が残った事例や患者が亡くなった事例では、賠償金が高額になる傾向にあります。
もし医師賠償責任保険に加入していなければ、多額の賠償金をすべて自己負担することになり、経済的な負担は計り知れません。保険に加入しておくことで、経済的リスクを1人で背負うことなく、もしもの時の負担を大きく軽減できるでしょう。
どの診療科においても訴訟リスクが高い
一般的に医療訴訟のリスクが高いとされているのは外科や産婦人科ですが、それ以外の診療科においてもリスクが高まっています。これはミスがあったかどうかに関わらず、患者やその家族が医師への不満を訴えるケースがあるからです。
例えば、精神科に通院している患者が自殺して亡くなってしまった場合に、患者の家族が訴訟を起こすというケースがあります。このケースはやや極端ですが、治療に時間のかかる病気や思うように治療の効果が出なかった場合に訴える可能性は十分にあります。
近年は、どの診療科でも訴訟される可能性が十分にあるので、リスクヘッジとして医師賠償責任保険への加入はおすすめです。
医師個人に対しての訴訟も発生している
これまでは、医療機関そのものを相手とした訴訟が一般的でしたが、近年では医師個人に直接訴訟を起こすケースも少なからず発生しています。
医師個人が訴えられた場合、その損害賠償も個人が背負うことになります。多額の賠償金や弁護士費用を個人で無理なく自己負担できるという人は、そう多くないでしょう。訴えを起こされた万が一の事態に、自分の身は自分で守るという意味合いでも、医師賠償責任保険は有効です。
3種類の医師賠償責任保険
ここでは、以下の3つの医師賠償責任保険について解説していきます。加入を検討している場合は、ぜひ参考にしてみてください。
- 勤務医師賠償責任保険
- 日本医師会医師賠償責任保険
- 病院賠償責任保険
勤務医師賠償責任保険
勤務医師賠償責任保険は、病院や医療機関に勤務している医師が対象となる保険です。勤務中に患者に損害を与えた場合や医療ミスと認定された場合、その損害賠償に備えることを目的としています。
勤務医の場合は一般的に病院が保険に加入していますが、個人でも保険に加入しておくほうが安心でしょう。というのも、医師個人への訴訟の増加や賠償金の高額化に伴い、病院で加入している保険だけでは補償が不十分な場合があるからです。
また最近では、勤務先とは別で非常勤や派遣として他の医療機関にも従事するケースが増えています。このような勤務先以外のリスクにも対応するために、勤務先以外での業務が補償に含まれるか確認しておきましょう。
日本医師会医師賠償責任保険
日本医師会医師賠償責任保険は、日本医師会に所属している医師が対象の保険です。この保険は、医師の賠償リスクを軽減するために日本医師会が提供しているもので、補償内容が比較的充実しています。
例えば、患者への医療ミスに対する損害賠償だけでなく、医療機関やスタッフが起こしたトラブルなども補償範囲に含めることができます。加入するには日本医師会の会員になる必要がありますが、幅広いリスクに対応できるのが強みです。
勤務医や開業医などの勤務形態に関わらず手厚い補償が用意されているので、詳細は日本医師会の「日本医師会医師賠償責任保険制度」から確認してみてください。
病院賠償責任保険
病院賠償責任保険は、個人ではなく、医療機関そのものが加入者となる保険です。所属している医師や看護師などのスタッフが起こした損害を幅広く補償してくれます。
この保険の大きな特徴は、医療機関という組織としての賠償責任を補償する点です。所属しているスタッフが医療ミスなどで訴えられた場合には、組織全体で責任を負う形になります。
ただし、医師個人が訴えられた場合には、この保険が適用されないことがあるので注意しましょう。補償内容にもよりますが、病院賠償責任保険だけでは、すべてのリスクに対応できるわけではありません。そのため、医師の方は個人でも医師賠償責任保険に加入しておくと、より安心です。
医師賠償責任保険から受け取れる保険金の種類
医師賠償責任保険では、主に以下のような種類の保険金を受け取れます。これらは医師なら誰しもが直面する可能性のあるリスクを補償するものなので、よく確認しておきましょう。
法律で定められた賠償金 | 被害者の治療費、入院費、慰謝料、休業補償等 |
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訴訟に関する費用 | 訴訟費用、弁護士費用等 |
損害の軽減・防止に必要な費用 | 求償権の保全や行使等に関わる費用 |
緊急処置のための費用 | 被害者への応急手当や緊急処置にかかった費用 |
協力費用 | 引受保険会社の要求に伴う協力費用 |
被害者への治療費や慰謝料、訴訟費用など様々な費用がかかりますが、医師賠償責任保険ではそれらの負担を補償してくれます。また他にも、弁護士費用や保険会社への協力費用など第三者に対する費用も発生しますが、それらにも保険が適用されます。
医師賠償責任保険に関してよくある質問
ここでは、医師賠償責任保険に関してよくある質問にお答えしていきます。あわせて参考にしてみてください。
- Q1.非常勤やアルバイト先での事故も補償の対象になりますか?
- Q2.オンライン診療も補償の対象になりますか?
- Q3.加入前の事故に関して加入後に訴えられた場合、補償の対象になりますか?
Q1.非常勤やアルバイト先での事故も補償の対象になりますか?
非常勤やアルバイトの医師として勤務している場合の事故も、補償の対象になる場合があります。ただ、補償されるかどうかは、医師賠償責任保険の補償内容によるため注意が必要です。あらかじめ非常勤やアルバイトへの補償が含まれているのか確認しておきましょう。
過去には、研修医が医療訴訟を起こされて多額の損害賠償を請求されたという事例も存在し、医療訴訟のリスクは誰もが抱えています。
たとえ非常勤やアルバイトだったとしても、患者側から見れば紛れもなく医師のひとりです。勤務形態に関わらず、医師として訴えられる可能性があるので、医師賠償責任保険への加入がおすすめです。
Q2.オンライン診療も補償の対象になりますか?
医師賠償責任保険の多くは、オンライン診療も補償の対象としています。ただし保険会社によって補償内容が異なるので、オンライン診療が含まれているか確認が必要です。
例えば、補償内容によっては医師と患者の両方が国内にいる場合のオンライン診療にしか保険が適用されない場合があります。海外で活動する可能性がある医師は、海外からのオンライン診療にも対応した保険を選ぶ必要があります。このように医師それぞれの働き方や活動範囲に合わせた保険選びが重要です。
コロナ禍以降、急激にオンライン診療が増加し、日常的に行っている医療機関も多いでしょう。そういった医療機関に勤めている医師や開業医は、オンライン診療への補償に手厚い医師賠償責任保険を選ぶのもおすすめです。
Q3.加入前の事故に関して加入後に訴えられた場合、補償の対象になりますか?
基本的に、加入後の診療行為が対象であり、加入前の事故に関しては補償の対象にはなりません。
ただ、一部の医師賠償責任保険では、過去に発生した医療事故に補償特約が適用される可能性があります。この特約を追加し加入しておけば、加入前の事故に関してもある程度負担を軽減してくれるでしょう。
とはいえ、保険とは万が一の備えとして加入しておくものです。そのため、訴訟や医療事故が起きてしまう前に、早めに医師賠償責任保険に加入しておくのが賢明でしょう。
まとめ:医師賠償責任保険の加入を検討しよう
本記事では、ここまで医師賠償責任保険の必要性や重要性、保険の種類などについて解説してきました。
医師賠償責任保険は、患者側から損害賠償を請求された場合の万が一に備える保険です。常に人命と関わり続ける医師が、リスクやトラブルに怯えることなく職務にあたるために、保険への加入は重要でしょう。
医師であれば誰にでも起こりうる医療訴訟に備えて、ぜひ加入を検討してみてください。