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大井 雄一 院長

YUICHI OOI

あふれる植物と縁側のある診察室で、リラックスしてお話しいただきたい

愛媛大学卒業。筑波大学附属病院初期研修プログラムを修了。同大学医学医療系助教に就任。官公庁、研究所、一般企業等、複数事業場の産業医として労働者のメンタルヘルス支援に尽力し10年奉職。しのだの森ホスピタルで精神科臨床に従事したのち、2023年8月に『澁谷川診療所』の院長に就任。(東京メトロ千代田線「明治神宮前駅」より徒歩9分、東京メトロ銀座線「外苑前駅」より徒歩12分、JR山手線「原宿駅」より徒歩11分、JR中央・総武線千駄ケ谷駅 徒歩11分、東京メトロ副都心線「北参道駅」より徒歩8分、都営大江戸線「国立競技場駅」より徒歩9分)。博士(医学)、社会医学系指導医、公認心理師、臨床心理士、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。内閣府事業「第23回世界青年の船」心理指導官。オープンダイアローグトレーナー養成プログラム(フィンランド・ヘルシンキ)修了。

大井 雄一 院長

大井 雄一 院長

澁谷川診療所

渋谷区/神宮前/明治神宮前駅

  • ●精神科
  • ●心療内科

「他者との関わり」に共鳴した研修医時代

大井 雄一 院長

医学部卒業後は地元の茨城に戻って初期研修を受けました。当時は「スーパーローテート方式」が導入されたばかりの時代でした。志望の診療科に加え、一般的・基本的な診療を行えるように内科や外科、産婦人科などの主要な診療科での研修も一定期間受けることが必修化されるようになったのです。実は当初は眼科医を志していたのですが、実際の研修のなかで私が意味を感じた体験は、研修医の「診療業務」とは別のところにあったようです。

研修は大学病院でしたから、内科でも外科でも、ご病気の重い患者さんがいらっしゃいます。そういった患者さんの生い立ちや思い出話などを、ベッドサイドでかなり長い時間、伺っていたのを思い出します。当時の私は、そのような時間のもつ意味について、測りかねていました。目の前に積まれた仕事を終わらせるためには、早々にお暇し、次の業務に移る必要がある。一方で、お話しくださることのありがたみや重みを感じ、お話を途中で切って…というのもはばかられる。このような時間の積み重ねが、自分と患者さんとの間に心地よい何かを築いている気もする。それはいったい何なのだろうか?というモヤモヤを持っていました。当時は言葉になっていませんでしたが、今思えば、「『他者と関係し場を共にする』とはどういうことか?」という問題提起を、私の身体が発していたのだと思います。仕事も遅く、研修医としては決して優秀ではなかったと思いますが、私にとっては重要な意味をもつ原体験であり、今の立場に通ずる道標であったように思います。

社会の中で人を診るということ

大井 雄一 院長

初期研修後は、産業医の道を選ぶことになります。この道を選んだのは、私より一足先に講座に入っていた友人に誘われたことがきっかけです。「どんなスキルが求められるの?」という私の問いに対し「人の話を聞ければ大丈夫だと思うよ」という彼のシンプルな答えが、私の背中を押しました。産業医のキャリアの中では、うつ病などのメンタルヘルス不調に至ってしまった方への支援に尽力してきました。不調に至ってしまった方のお話を丹念に伺っていくと、そこに至ったいきさつが見えてきます。過重労働などの過大な負荷、異動などの環境変化、ハラスメントを含む対人関係不和といった、環境の要因が少なからず寄与しているということを、産業医現場では山ほど味わってきました。海外拠点への出向者や、長期船旅での異文化交流(内閣府事業 世界青年の船)、そして精神科病院で治療を受けておられる方も含め、様々な条件下にある方々の支援に携わりましたが、そのあり方はとてもよく似ていました。「病気」や「体調不良」の兆候は個人の心身に現れますが、その兆候は複数の要因が複雑に影響した結果であると私は考えています。いわゆる“症状”と呼ばれるものはその人自身と周りの環境との相互作用によって生じた反応であり、根本的なサポートを提供するには、個人のみでなく、環境へのアプローチや調整もまた非常に重要である、ということに気づかされました。

人間性と尊厳を第一に

大井 雄一 院長

そのようななかで、私はオープンダイアローグというものに出会います。それは複数の専門家が精神的困難状況にある当事者の方やその周囲の方と対話を継続することでケアしていくという、フィンランド発祥の心理療法であり、またサービスのシステムであり、考え方でもあります。フィンランドでの研修では様々なことを学びましたが、私にとって何よりもその場は「人間性の学校」であったように思います。自分自身がクライアントとなり、様々なことを語り、聴かれる体験の中から、研修医時代に端を発した問いに向き合うたしかな手がかりを得たように思います。何かの症状や診断名があろうとなかろうと、どのような属性を背景に持つ方であろうと、目の前に存在するのは「人間」であり、一人ひとり異なる名前のある「個人」である、ということ。どのような支援であれ、他者に向き合うことで生じる尊敬の念なしに、好ましい帰結を迎えるのは難しいと思っています。

「普段着の言葉」での対話

「澁谷川診療所」の診察では原則的に個人対個人の診療になります。その枠組みの中でできることには限界があることを認識しつつ、より対話的で包括的な支援の場をどのように構築していけるかということを常に考え続けていきたいです。今回の開業はそのスタート地点であり、その時その時に何に手を伸ばせるか、という現実的なことに向き合いながら、提供できるサービスを徐々にアップデートしていけたらと考えています。診療所では、40種類を超える植物とともに患者さんをお迎えします。隣の和室からつながる縁側もあり、庭のような雰囲気です。白衣は着用しません。同じ種類の椅子に座り、共に理解し共有できる言葉を探し折り重ねながら、専門用語は極力控えて「普段着の言葉」での対話の場をつくりたいと考えています。いらっしゃる患者さんとしては、主に年齢の若い方や、労働者の方、ストレスやプレッシャーを感じておられる方、を想定しています。これまでの経験を活かし、環境と個人の関わりを含めたアプローチを模索していきたいと考えています。患者さんが日常の場面で背負っておられる重荷を一瞬、場に置き、ここで互いに声を重ねた体験の中から、患者さんご自身が気に入ったり役立てられると思ったりしたことを日常の舞台に持ち帰り、少しずつ生かしてもらえるような時間を、ここで一緒にもてたらと考えています。


※上記記事は2023年8月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。

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