世界各国で開発が進められている医療AI。
しかし、医療AIの開発により、どんなことができるのかがいまいちわからない方もいるでしょう。
ただし、今後の医療現場では、次々と医療AIが導入されることは、ほぼ間違いないでしょう。
そこで、あらかじめ医療AIに何ができるのか、医療AIがすでに活用されている事例などを知ることが必要です。
本記事では、医療AIの活用範囲や事例、医療AIに期待されていることを解説します。
この記事の内容
医療AIとは?
まずは、医療AIがどのようなものかを解説します。
医療AIとは、AIを活用して医療の質を向上させることを狙いとしたものです。
技術の発達が著しいAIを医療現場で活用することで、作業を効率化したり精度を高めたりできます。
医療現場では、人員不足や地域格差が大きな問題となっており、これらを解決する糸口として大いに期待されているのです。
医療AIの活用範囲
ここでは、医療AIがどのような場面で活用されるのかを見ていきます。
厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」において、「AI開発を進めるべき重点領域」として、以下の6項目が挙げられていました。
- ゲノム医療
- 画像診断支援
- 診断・治療支援
- 医薬品開発
- 介護・認知症
- 手術支援
日本では主にこれら6項目において、医療AIが活用されることを示しています。
1つずつ、どのように活用されるのかを確認していきましょう。
ゲノム医療
1つ目はゲノム医療です。
ゲノムが変異すると、疾患の原因になることもあります。
しかし、30億塩基対もあるゲノムの変異を人が手作業で調べるのはほぼ不可能です。
そこで、AIを使って、ゲノムがどのように変異したのかを短時間かつ正確に調べることができ、診断に活用できます。
さらに、AIは抗がん剤の感受性やがんの発生に関する遺伝子の変異も調べることができ、治療方針を決める際に判断材料として用いることも可能です。
このように、遺伝子変異が関係する疾患の診療にAIが活用されています。
なお、日本ではゲノム医療におけるAIの活用が諸外国に比べ遅れをとっているため、取り組みの強化が求められています。
画像診断支援
2つ目は画像診断支援です。
画像診断支援には以下の3つの種類があります。
- 医師の診察前にAIが診る
- 医師の診察後にAIが診る
- 医師と一緒に診る
医師の診察前にAIが診ることで、医師が重点的に診るべき症例を教えてくれるため、医師の負担が軽くなります。
また、医師の診察後にAIが診ることで、二重チェックになり、より正確な診断のサポートをしてくれるのです。
そして、医師と一緒に診ることは、医師の診察に隣からAIが助言をできるため、見逃してしまうことが少なくなる効果が期待できます。
診断・治療支援
3つ目は診断・治療支援です。
医療AIは、日々発表される論文の解析や情報の検索、オンライン治療などに活用されています。
大量の論文全てに目を通すのは困難であるため、AIに必要な情報をキャッチアップしてもらうことで、医師の負担を減らすことが可能です。
また、地域によっては医師が不足しており、適切な医療を施せない場合もあります。
その際に、AIを利用することで、医師が充足している地域と同程度の品質を担保できるでしょう。
医薬品開発
4つ目は医薬品開発です。
日本は新薬を開発できる数少ない国であるものの、すでに多くの医薬品が開発されているため、新しく効果の高い医薬品を開発するのが難しくなっています。
そこで、AIが持つビッグデータやディープラーニング、機械学習を活用することで、新たな医薬品を開発しやすくなります。
介護・認知症
5つ目は介護・認知症です。
介護・認知症分野では介護ロボットの開発が進められています。
AIを搭載し、被介護者の生活リズムなどを予測することで、介護者の手を使わずに被介護者の生活をサポートできるようになるのです。
また、高齢化に伴い、認知症を患う方の数は増えることが予想されます。
認知症患者の増加に対応するには、迅速な対応が求められるため、認知症の診断や治療にもAIを活用することが必要でしょう。
手術支援
6つ目は手術支援です。
日本では若手外科医が減り続けており、外科医1人あたりの負担が大きくなってしまっています。
そこで、AIを用いた手術用ロボットの開発が進められています。
しかし、手術のデータが圧倒的に不足していることや医療機器のIoT化・医療機器同士の連携が進んでいないため、AIを活用できる土台を整備することが必要です。
本格的に実用化されている事例は多くありませんが、今後の研究によりさらなる実用化が期待されています。
医療AIの活用事例
ここでは、医療AIが活用されている事例を3つ見ていきます。
- 眼底画像診断システム OPTiM Doctor Eye
- ZETA
- AI問診 Ubie
それぞれの事例について、どのように使われているのかを確認していきましょう。
眼底画像診断システム OPTiM Doctor Eye
1つ目に紹介する事例は、眼底画像診断システム OPTiM Doctor Eyeです。
眼底は目の病気のみならず動脈硬化・糖尿病の早期発見がしやすい部位であるため、正確に診断することが求められます。
OPTiM Doctor Eyeを使えば、画像を解析し視神経乳頭(視神経が集まっている部分)の凹み具合を計測できるため、人間よりも正確な診断が期待されます。
まだ製品化までは至っていませんが、医療AIの可能性が感じられる事例です。
参考:「眼底画像診断支援システム OPTiM Doctor Eye」医療機器プログラムの認証を取得
ZETA
2つ目に紹介する事例は、ZETAです。
ZETAは凸版印刷が開発している見守りシステムです。
トイレや浴室の中は目が行き届きにくい場所であり、転倒しても気づかれないこともあります。
そこで、どのようなパターンが転倒であるのかを学習したZETAを用いることで、目の行き届かない場所で転倒した場合でも警報システムにより、すぐに検知できるようになります。
参考:さまざまな社会課題に対して、ZETA(ゼタ)によるスマート社会を実現
AI問診 Ubie
3つ目に紹介する事例は、AI問診 Ubieです。
従来の問診票は、紙で印刷されるため、あらかじめ決められた質問に患者が答える形態を取らざるを得ませんでした。
そのため、場合によっては問診の精度が低い場合もあります。
そこで、タブレットやスマートフォンで問診を入力できるようにし、患者が入力した内容をもとに質問を作ることで、詳細な問診を可能にしたのがAI問診 Ubieです。
詳細な問診が可能になることで、従来よりも診療が容易になる効果が期待できます。
また、タブレットやスマートフォンで回答できるため、患者の待ち時間を減少させたり、入力ミスを減らしたりする効果もあります。
参考:ユビーAI問診
医療AIに期待されること
今後、医療AIに期待されていることとして、主に以下の3つが挙げられます。
- 最先端医療の研究を加速
- 地域格差の減少
- 業務効率化
1つずつ確認していきましょう。
最先端医療の研究を加速
医療AIは最先端医療の研究を加速することが期待されています。
医療AIを用いて診療を行うことで、さまざまなデータが取得できます。
また、データを取得できるだけでなく、自らも学習するため、どんどん新たな知見が溜まっていくのです。
人が行うよりもずっと多くのデータ収集と試行が繰り返されるため、研究がよりスピードアップするでしょう。
地域格差の減少
医療AIには、医療における地域格差の減少も期待されています。
AIによる治療ができることで、医師が直接現場に行かなくても診療できるようになるでしょう。
そのため、医師が少ない地域でも、医療AIにより治療の質・回数が担保されます。
しかし、デジタル化についていくのが厳しいという患者もいるため、サポート体制を築く必要があるでしょう。
業務効率化
医療AIには、業務効率化も期待されています。
先ほど紹介した画像診断支援でもあったように、医療AIは医師の診療をサポートし、医師の負担を軽減する役割を担います。
そのため、医師の負担が軽減し、業務の効率化が図れるのです。
また、データで管理できれば、事務作業も大幅な省力化につながるため、さまざまな点で業務効率化が実現できます。
まとめ
医療AIは、正確かつ迅速な診断のサポートや新薬の開発、遠隔地にいる患者への医療の質の担保などが期待されています。
OPTiM Doctor EyeやZETA、Ubieのように、すでに活用されている事例もあれば、手術支援のように、これからの開発が期待される分野もあります。
医療AIはさまざまな場面で活用されることが想定されるため、時代に取り残されないためにも、今回紹介した内容については理解しておくことが望ましいでしょう。